第38話:セミファイナルC組「LUX NOCTIS」
控室のドアがバタンと閉まる。その瞬間、
「はぁ〜〜! やったったな〜!!!」
ひよりが床をドンドン踏み鳴らしながら、嬉しそうに叫んだ。
ミサがタオルで汗を拭きながら、ファイバーの光をちらりと見せる。
「光、踊りすぎてコードまで狂っとったけどな〜。
でもそれが正解やったっぽいな!」
ルカはギターの弦を軽くつま弾きながら、微笑む。
「うちの音、ちゃんと刺さっとったやろ?
鳴らした瞬間、客席の目ぇがビビッて光っとったがね〜」
七海がラメのピンクに指を添えながら、目を輝かせる。
「今夜はうちら、ステージごと“かわいいの限界突破”しとったわ!
観客のハート、がっつり撃ち抜いたもんね〜」
れいなはベースを静かに下ろして、淡々と言った。
「…うちらの音、ちゃんと届いた。あれは本物やて」
その言葉に一瞬静寂が訪れ――でもすぐに、ひよりがパチンと手を叩いて元気よく言った。
「ななみん〜! 今日めっちゃ頑張ったで、打ち上げは奢ってちょーよ〜!
ポテチも唐揚げも、うちらの“優勝気分”のごほうびだがね〜!」
七海が笑いながら両手を挙げて答える。
「ええよ〜。今夜はROUGE NEONの勝利やで。
財布、まるごとぶち込んだったる!」
わいわいと笑い声が重なる。
光の余韻が控室の天井でゆらめいて、ネオンの夜はまだ終わらない――。
控室の空気は、まだステージの熱を引きずっていた。
でもその中で、七海がふと遠くを見るような瞳で呟いた。
「なあ、LUX NOCTISって……どんなバンドやったっけ? なんか、知っとる?」
笑いが消えて、場が一瞬だけ静かになる。
れいながベースを拭く手を止め、少し顔を曇らせて答えた。
「……うちらもな、ようわからんのやて。情報、ほとんど掴めとらんの」
ルカがギターをくるりと回して、いつもより真顔で言う。
「予選グループ違っとったやろ?
でもよー考えたら、“映像すら残ってない”って、なんか変やと思わん?
音だけで、会場の記憶ごと消し飛ばしたみたいな感じやったんよ」
ミサがすっと立ち上がり、ファイバーを指で整えながらぼそっと漏らす。
「名前だけは聞いたことあったけどな〜…なんか、“見たはずなのに覚えとらん”って感じで気味悪いんやて」
ひよりがスティックをぽんっと肩に乗せて言う。
「まじでミステリーじゃん! 観た人も“光が強すぎて何も見えんかった”って言っとったらしいよ〜! うちらと方向性、まるで違うっぽいで」
メンバーの間に、言葉にしにくいざわつきが流れる。
誰も直接LUX NOCTISを見たことがないはずなのに、“何かがそこにあった”という気配だけが心に残っていた。
七海は静かに口を閉じ、胸元のラメに視線を落とした。
ステージに立つ者として、その“音の正体”が、少しだけ怖かった。
セミファイナルC組「LUX NOCTIS」
ラテン語で「夜の光」の意。
闇を越えて光を届ける、という楽曲のコンセプトにマッチ。
バンドコンセプト
ジャンル:オーケストラル・ロック / シンフォニック・ロック
特徴:クラシカルな要素とロックを融合した圧倒的スケール感。
テーマ:“再生”“希望”“救い”を音楽で表現すること。
パフォーマンスは黒×金を基調とした荘厳な衣装とステージング。
メンバー構成(5人+映像によるサポート隊)
ボーカル兼 作詞担当:瑞希(みずき)
カリスマ性のある中性的なボーカル。
深い声色から高音まで幅広いレンジ。
歌詞の世界観づくりにも秀でた詩的センスの持ち主。
キーボード :詩音(しおん)
音楽コンクール入賞経験あり。
クラシックと現代のハイブリッドアレンジを得意とする。
オーケストレーションを担当、ピアノパートで楽曲の核を担う。
ギター:怜(れい)
ロック系とメタル系のテクニックを併せ持つギタリスト。
ギターソロとリフで楽曲に情熱を注入。
ストリングスとの“対話”を意識したアプローチを重視。
ドラム:空良(そら)
パワフルかつ繊細なプレイが持ち味。
タムやシンバルで“天に届く音”を表現。
「HELLO, SUNSHINE!」のクライマックスで魂のフィルを披露。
シンセサイザー:楓(かえで)
アンビエント音・クワイア系パッドなどの空間演出を担当。
バンドの音に“空間と神秘”を与えるキープレイヤー。
サポート隊(ライブ用映像によるオーケストラ部隊)
学校の吹奏楽部・弦楽部の有志がサポート。
弦(ヴァイオリン・チェロ)+ブラス(ホルン・トランペット)編成。
演奏開始30分前、控室では静かに「ミサ」が行われていた。
黒と金のステージ衣装に身を包んだ五人が、静かに控室の中央に集まっていた。
ピアノの詩音が小さく呼吸を整えながら、持参した十字のペンダントに指先を添える。
「主よ、我らの音に希望を宿し給え……」
メンバーが無言で祈りを捧げる。
指揮台に立つ詩音が口元で小さく呟く。
「LUX NOCTIS、音の祈り——始めましょう」
控室の「ミサ」を終え、メンバーたちは静かにステージへ向かった。
ステージが完全に暗転した瞬間、巨大スクリーンに映像が浮かび上がる。
スクリーンには、フルオーケストラの演奏風景。
漆黒の背景に金色の譜面が舞い降り、ヴァイオリン、チェロ、ホルンたちが祈りのように動き出す。
その音は、先ほど控室で交わした「願い」をそっと形にしていく。
詩音のピアノが触れる音に合わせて、映像の中でもピアノの鍵盤がアップで映し出される。
HELLO, SUNSHINE(救いの光)
1番
目覚めたその時 You’ll see the light
闇の中にも softly shining bright
昨日の涙 Still they remain
それでも 歩き出せる again
空を仰げば Reach for the sky
希望の鼓動が 静かに響く
HELLO, SUNSHINE! 微笑む朝
君がいるだけで The world is bright
どんな時も ひとりじゃない
HELLO, SUNSHINE! We’ll be all right
2番
雨に濡れても The road stays open
遠く霞む未来 You can reach it someday
心の奥に 燃える light
「迷わずに ただ believe in it」
広がる世界へ Step by step
君の鼓動が Turn into song
HELLO, SUNSHINE! 君の輝き
その声ひとつで Someone’s saved tonight
どんな時も 負けないように
HELLO, SUNSHINE! With all your might
HELLO, SUNSHINE! 手を伸ばせば
Your light will shine and guide the way
今日が終わっても 明日は来る
HELLO, SUNSHINE! Just believe and stay
"HELLO, SUNSHINE!"
中央に立つ瑞希が、柔らかな光に包まれてマイクを持つ。
そして、静かに歌い始める
“目覚めたその時 You’ll see the light
闇の中にも softly shining bright”
その歌声に呼応するように、スクリーンの中のオーケストラが次第に色づく。
弦が揺れ、ブラスが輝き、木管が風のように踊る。
怜がギターソロで“光の導線”を描くと、スクリーンは演奏映像から夜明けの景色へと切り替わる。
一面の空が金色に染まり、音楽と映像が完全に一体化する。
空良のタムが“太陽の鼓動”のように響き渡り、映像では指揮者がクレッシェンドの
頂点で腕を広げる。
その瞬間、ステージ照明も爆発的に金に切り替わる。
コーラス隊の声が、スクリーンの中のホールと観客席に響くようなエフェクトで
重なり、観客たちは、“その空間全体が音楽そのもの”になっている感覚に包まれて
いた。
“HELLO, SUNSHINE! 微笑む朝
君がいるだけで The world is bright”
そして——
映像の最後には、白い光の中で静かに立つ奏者たちの背中が映され、
瑞希の歌う声にそっと字幕が重なる。
“HELLO, SUNSHINE...”
その声は、スクリーンにも、ステージにも、客席にも響き、
すべてが“夜の光”に導かれていた。
演奏が進む中と、会場は息を飲んだように静まり返った。
目の前で繰り広げられるLUX NOCTISの音楽と映像の融合は、現実離れした美しさに満ちていた。
それは浄化——音楽によって何かが救われた証。
ステージが静かにフェードアウトした時、誰も声を出さなかった。
拍手も叫びもなく、ただ“圧倒的沈黙”。
それは敬意——神々にひれ伏した者たちが、言葉を失った瞬間だった。
観客の一人が声を上げる。
照明が静かに落ち、音の余韻だけが空間を支配する。
“HELLO, SUNSHINE...”という最後の一声が、
まるで天から降り注ぐように響いた後——
わずかな間を置いて、
観客席は、誰からともなくゆっくりと立ち上がった。
ざわめきも歓声もなく、ただ静かに。
その姿は、もはや観客ではなかった。
舞台に降り立った神々——LUX NOCTISへ、
祈りを捧げる者たちだった。
両手を胸に当てて目を閉じる者。
涙を流しながら空を仰ぐ者。
肩を寄せ合い、静かに何かを誓う者——
ステージと客席が完全に一体になった一瞬。
それは“音楽という神の奇跡”が舞い降りた瞬間だった。
観客の一人が声を上げる。
「LUX NOCTIS!」
それに釣られるように会場にいた全ての観客が叫び出す。
「LUX NOCTIS!」
「LUX NOCTIS!」
それは、まるで「LUX NOCTIS」という名の神々に全てを捧げる信者の叫びのようだった。
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