第2話 神様を祀った剣?
「ま、インテリアとしては最高だね。
砦に囲われた船着き場の石畳の通路を歩きながら、ローウェンは満悦そうに宝剣を、抜けるように青い空に掲げ、眺めていた。たった200エーネでこれだけの逸品を手に入れられたのだ。自然と心も踊る。
機会があったら、東那国のその筋の者に正式に鑑定してもらい、いつの時代の物なのかや、値打ちなどをハッキリさせるのもよいだろう。本当は、試し切りをしてみたい欲もあるが。
何にせよ、曰くつきと言っても、憑いているものが亡霊の類なら安いものだ。しかも女ときた。美人の亡霊だったなら、会ってみたいまである。
「よう、ローウェン。随分とご機嫌そうじゃねえか」
声のした方向に顔を向けるローウェン。屈強なギルドの男達が、商船から降りようとしていた。
「ああ、ビリーの兄さん。お船の旅から戻ったんだ」
彼らを率いる一際大柄な男―—ギルドの有力ハンターの一人、ビリーに会釈する。
「おう。
ここ最近、近海を荒らしまわったことで、指名手配されていた海賊船の首領。
彼らをおびき出すために、護衛対象の商船にわざと護衛船をつけずに、無防備な獲物と誤認させ、乗り込んできたところを、ビリーほか屈強なハンター達が中から登場。戦闘らしい戦闘にすらならずに、あえなく御用、というのが事の顛末らしい。
ギルメン達が用心棒として護衛していた商船では、荷の積み降ろしが始まっていた。
それと同時に、魔法式の縄で捕縛された海賊たちも、ゾロゾロと連行され出てきた。中には痛ましい姿で、担架に乗せられて出てくる者もいる。武運拙く、死体になってしまった者もいるのかもしれない。「よりによって兄さんが乗った船を襲うとか、運が悪いねえ」とローウェン。
「しかし、商船護衛も街道の護衛も悪かないんだがな、たまには
「仕方ないさ、戦争もほぼ終わりかけだし。
ビリーは無言で「フン……」と、何とも言えない複雑な反応を見せた。
「で、お前、その剣は一体なんだ? またいつもの東那趣味か?」
無遠慮に指をさしてくるビリー。
「これ? 女の亡霊が憑いてるって曰く付きの宝剣。みんな気味悪がって買わないからって、200エーネで叩き売られてたんだ。見てくれよこの
剣を抜き、得意げに鼻息を荒げるローウェン。「お、おう」と引きつった愛想笑いを浮かべるビリーの背後で、ギルメン達が「子供かよ」「うげー、気持ち悪ぃ」「近寄んなよ。取り憑かれる」と口々に毒づいた。
「……ちょっと、近くでよく見せてくれねえか?」
その中で一人、
メガネの位置を直しながら、くそまじめな声色で語りだす。
「こいつは……凄え。何かしら、とてつもなく強大な力が宿っていた形跡がある」
「あ、やっぱりそういうアイテム? 装飾のデザインからして、何かの儀式とかに使われてた剣かなって勝手に思ってたけど」
「いやお前……感じる風格からして、少なくとも、こんな町のど真ん中で抜いたり、倉庫でガラクタと一緒に放置されるような、そんな代物じゃねえよ。
神様? 神様だってよ。教会の奴らに見られたら面倒なんじゃねえのか? ギルメン達が色めき立つ。道行く人々も、その騒ぎを小さく振り返りながら、去っていく。
へえ……。と感心しながら、ローウェンは宝剣を今一度じっくりと眺めた。
「神は全知全能にしてただ一人」と教会が説くセンタグランドとは違い、東那国は善悪問わぬ様々な「神」が、各地で祀られたり、封印されていると聞く。
「神様、ねえ」
「ふん。……しかし、そんな御大層なブツをたったの200エーネで取引するなんて、
ビリーの皮肉に、違えねえ! どっと笑いが起こった。
――その様子を見ながら、陰で耳打ち話をする者達の存在には、誰も気づくことはなかった。
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