第8話
春坂義雄は二人の陰陽師を連れて山間で式神を準備して待機していた。自衛隊が近づいて来たら式神を放つ事になっているのだが、自衛隊のスタート地点からは約2.5キロの距離。猿の様な式神三体が待ち構えている。お互いに位置情報を掴ませない為に緊急時に掛ける携帯以外には終了するまでは連絡は取らないようになっている。自衛隊との訓練は九条駐屯地が出来て以降行われている訓練である。それまでは自衛隊にその様な訓練は無かったのだが政府も潮目が変わったと思ったのか、定期的に行われる様になっている。春坂義雄以外には、現役の大人組である八坂直樹(やさかなおき)と小波絢(こなみあや)が春坂と共に訓練に参加している。春坂にとっては後輩に当たり、夏の怪談の1件にも参加して重症を負ったが生存している。八坂直樹はその時の傷跡が体に残っており今でも痛むという。
「春坂さん、どうぞお茶です」
「ありがとう御座います。美味しいです」
「ゆっくり移動されるでしょうし、会敵まで40分くらいでしょうか」
「ええ、恐らくは。ドローンを使用してくると聞いてますので、もっと早く終わるかもしれませんね」
急に、3人の表情が一変する。大きな妖気の塊がこの近くに出没しているのである。陰陽庁から妖怪が現れる兆候は聞いていない。顔を見合わせて妖気のする方角へ向く。あの夏を思わせる程の妖気が感じ取れた。それから銃声と悲鳴が夜空に響き渡り化け物の声が春坂達の耳にも届く。式神と共に、3人はすぐ様夜の森を駆け抜けて行く。携帯に連絡を入れる。
【こちら指令室。緊急事態になるまでは連絡はしないはずでは?】
【その、緊急事態だと思ったから連絡をしました。我々はまだ貴方達と会敵をしておりません。恐らく本物の妖怪がこの地へ出没した様です。こちらで対処しますので撤退指示を!!】
【ではA班は・・・・・・つっつまりこれはすでに実践だと?】
【そうなります。かなりの強大な妖怪ですので今の我々でも討伐可能か分かりません】
【そっ・・・それほどの!?おい、B班撤退しろ!!何?すでに目視の範囲だと!?応戦しつつ戦線を下がれ!!C班も移動せよ!!】
自衛隊の設備と人員の損失は避けねばならない。訓練で死亡となれば尚更である。マスコミに嗅ぎつけられでもしたら、自衛隊全体が槍玉に上げられる。A班からの連絡が途絶えたのは全滅した可能性があると悟ると司令官は青ざめる。B班は、妖怪を視認しつつ迎撃を行った。上手く木を盾にして防がれている。とはいえ距離を慎重に保てれば被害を受ける事はない。言われた通りに射撃を行いながら下がり始める。このまま無事に距離を保てるという安堵は、次の化け物の姿を見て絶望へと変わった。
「ーーーーーーーーー全員身を隠せ!!」
A班から奪ったであろうマシンガンを両手に構えて発砲して来た。木の幹が削れる音が聞こえる。隊長は無事だったが、隊員の一人が肩に被弾して地面に背を打ち付ける。
「何で武器なんか所持出来るんだ!!反則にも程があるだろうが!!」
涙目になるB班の隊長を嘲笑うようにマシンガンを放ちながら移動する化け物。
その時、無線に遠藤の声が響く。
【C班、目標を視認完了。これよりB班の援護射撃を開始する!!】
遠藤は先に視察を済ませて状況を把握していた。掲げた腕を振り下ろし、全員に合図し指示を出す。絵美、秋山、船橋、白木の銀銃が火を噴く。B班が下がったお陰で、射線が確保出来た。思わぬ横からの攻撃に化け物は回避も間に合わずに銀銃の餌食となり、悲鳴が上がる。今度はC班の方角に発砲を行い、遠藤達は身を潜める。好機と見て、B班も射撃を再開して挟撃し始めるとたまらず化け物は下が始めた。
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