第21話 屋台で野菜を出したいあたい


パーラの人たちはお祭りが大好き。だから春の桜まつり、夏祭りと花火大会、収穫祭に雪まつり。一年を通して色んなお祭りが開催される。


イベントごとだって充実してるよ。乙女ゲーにイベントは必須だからね。だから王様の誕生日だってお祭りになるわけで。


しかも期間が結構長かったり。貴族の夜会が始まるより前に、お祭りは始まっちゃうわけです。


さらにそれぞれの都市や貴族の領地ごとに領主様の誕生祭だとか記念日とか。パーラ全土に目を向ければいつでもどこでもお祭りがある感じ。


お祭りと言えば屋台じゃん?えっ?違う? 花より団子って言うし間違ってないと思うんだけどなぁ。


その屋台専門の人たちもいたりして。テキ屋さんだね。パーラのテキ屋さんは本当に屋台専門って感じだから。日本のテキ屋さんのことは良く知らないけど。


元々ヨーロッパ風の世界観だから串焼き屋さんとかはあるんだけどそれだけだと寂しいからね。タコ焼きに唐揚げ、フランクフルト。チョコバナナにりんご飴。焼きそばなんかもあるよ。


「今のまんまでもいいんだけどさ。あたいは新しい商品も出していきたいんさね。親父の言うことも分かるけど、あたいらみたいな若い連中からすりゃもっと違うもんも食いたいんじゃんか」


「うーん。ミーナさんが毎日屋台やってるのもあるんじゃないかなあ? 私たちはたまに食べる屋台の料理って感じで、飽きてるわけじゃないしさ。

 でも、屋台で野菜料理を出したいって言うミーナさんの気持ちは新鮮だったし、私もいま野菜料理研究中だったから試してみるのはいいかも?」


若いミーナさんはお祭りの屋台料理に少し飽きてるのかな?もしかすると屋台から見るとお客さんも慣れてきて新鮮さ感じてくれてないっていう感覚があるのかもね。


王都でのお祭りの際は必ず来てくれる屋台の一員で私の友達であるミーナさんはお昼を食べに来た時にこんな相談をしてきたんだよ。


ほらほらぁ、私だって友達いるんだよ?


それで良く良く聞いたらここでも貴族の屋台と一緒で野菜が目立たないって思いがあったみたい。


確かに屋台で野菜って、きゅうりとかくらいしか思いつかないかも。お肉があんまり入って無くてキャベツたっぷりの焼きそばは野菜!って感じじゃないしね。


「でも屋台って色々制限があるよね。手で持って食べられるものとか、そういうのがいいんでしょ?」


「焼きそばとかもあるさね。でもメインは串か紙で包んで手で持てるようなもんがいいだろうさ。カップと楊枝なんかでもいいさね」


そう、お祭りの会場を歩きながら食べれる物がいいよね。焼きそばとか主食系は別としてだけど、


野菜スティックはイケるかなと思ったけどお味噌とかマヨネーズとか別に用意っていうのも難しいし。カップの底に時付けもなんか違う。なしではないけどね。


夜会用に考えてたカップサラダやカクテルサラダなんかも食べやすさの点でいまいちだし。案外難しいな。


「オリーブとかプチトマトならカップに入れて楊枝で摘まめると思うけど。美味しい素材を用意すれば味としてはイケると思うんだけどね」


「華がないさね。フルーツならまだしも野菜だとそこまで受けないと思うねあたいは。自分で食べる分には欲しいとこだけどね」


なんかもう一息な感じなんだよね。一個思いついてることはあるんだけどアレは今すぐは無理。用意が必要だし。


トマトやオリーブは美味しんだけどね。なんか雰囲気違うっていうか。少なくともテキ屋のミーナさん的には売れないかもって感想だしね。


既存の屋台で提供されてるものってやっぱり考えられてるんだなって改めて思うよ。


綿あめやりんご飴とかは割りばしみたいな棒で、串焼きもそうだし、空揚げならカップでもいいんだけど野菜で料理って感じ出すとすると、ね。


うん?今なんかあったよね。りんご飴。りんごそのままじゃやっぱりちょっと華が無いかもだけどりんご飴なら違和感がない。


なら!


一番簡単にすぐ出来るものとして、まずはコレ!


「こりゃりんご飴、にしては小さい。それにこれは、よく見たらトマトかい! ミニトマトのトマト飴。

 甘い飴が表面をしっかりコーテンィグしていて。それでもわずかにトマトの甘ったるくない清かな香りもあっていいね。

 噛めば飴がカリッとして中からトマトの酸味と甘みが広がって。これは美味いし、華もある。これはイケるよ!」


うん。リンゴの替わりにトマトを使ったトマト飴。でもコレだけじゃないよ?


「こっちはミニキャロット。これは一気にバターの香りが! グラッセかい?

 ミニキャロットでも小さめのものだから一口で食べられるし、バターをたっぷり使ったグラッセの濃厚さは飴とは違う甘さでマッチしてるよ。

 こっちはなんだい?白い、ヤングコーン? これは! 思った以上に柔らかい。それに甘い。甘いトウモロコシのそれよりずっと果物に近い味。

 でも果物ともまた違った食べ味は独特で、これは他の店との差別化にもいいね。全部イケるよ」


ミニキャロットは小さいニンジン。一口大のグラッセにしてから更に糖衣で包んだ。


バターグラッセはお鍋に水と少し香りづけに白ワインを入れてニンジンに火を入れて。たっぷりのバターと塩と砂糖を加えて煮詰めていく感じ。


コンソメを加えたり他に色々と味付けの幅もあるけど今回はシンプルなグラッセで。


更に糖衣をまとわせてツヤを出すのと甘みが追加されるのでグラッセ時の砂糖は控えめで仕上げました。



そしてホワイトヤングコーン。白いトウモロコシはそのままでも甘くて果物に近い味で、柔らかさも特徴だから生でも美味しいトウモロコシ。


その白トウモロコシのヤングコーンは楊枝に差して食べれるサイズだし軽く湯がくだけで十分に美味しい。


トマト飴やグラッセと併せるなら敢えてそのままで、味のバリエーションを増やしてみたよ。


それにグラッセが行けるならニンジンだけじゃなくてサツマイモやパプリカ、小カブや小玉ねぎもいけそう。


それにもう一個思いついちゃった。グラッセはバターグラッセの他にマロングラッセみたいなパターンもあって。


その場合は糖衣だけじゃなくてゼリーとかでもいいわけで。ゼリーは甘くなくても大丈夫だとすると。


ジュレドレッシングのように周囲にまとわせれば一口ミニサラダとしてもいけると思うんだ。串に刺せる野菜ならなんでもいいかも。


芽キャベツやアスパラ。ブロッコリーやカリフラワーもイケるかも! これは夢が広がってきたよ。


ミーナさんと一緒に色々と試してみよっ!



――――――――◇◇―――――――――――――――――


「ミーナさんどう? 売れ行きは好調……みたいだね」


「ちょっと待ってなっ! はい、こっちはトマト飴ね、そんでこっちがグラッセのミックス。あんたはなんだっけ?串サラダの芽キャベツとアスパラかい」


珍しさもあって大盛況だね。色々と試した結果、グラッセ関連はカップと楊枝で提供することにして、色々と選べるようにしたんだ。


透明なカップに色とりどりの甘い味の野菜たちは見た目も華やかだし楊枝で摘まめる手軽さもあって大人気だ。


味もお祭りと言えば肉系か粉もの、お菓子類が多い中で、お菓子類に近いけどやっぱり野菜だからさっぱり感もあって受けているみたい。


「サラダ串は初めてだがどんな感じなのかしら? えっとドレッシング部分と一緒に食べるといいんだったっけ?あ、これホントにサラダそのもの。

 ドレッシング味の少し固めのゼリーと野菜がシャキシャキの歯ごたえとさっぱり感をくれて濃い味の多い屋台ものが続いてる時には凄く嬉しい!

 アスパラは特有の爽やか味で、カブは瑞々しくて。芽キャベツは可愛い見た目だけどキャベツの優しい味が感じられて。串でサラダを食べる感覚、すっごく新鮮!」


お客さんの反応も上々だね。


サラダ串はそれぞれ軽く湯がいて歯ごたえを残し串に刺さる固さに。それでもシャキシャキやパリパリの食感に調整してゼリーを挟むように差してく。


串に刺せて口で溶ける固さの調整に苦心したけどそこは魔法もあるからね。ミーナさんは若いころから屋台で働いてからその辺はバッチリ。屋台料理は大きなも道具が使えない分、魔法で保存したり色々と使うみたいだからね。


色とりどりの可愛いサイズの野菜たちが並んだ屋台は目を引くし、祭りサラダって名前も興味を持ってもらえたみたい。


これはカップや串を工夫すれば夜会でも使えるよね。奇麗なグラスやカクテルピンを使ったりすれば、十分に通用すると思うんだ。


お祭りも盛り上がってきたし、私も午後の時間、ちょっとだけ試したいことがあるからね。


和みの屋台版、開店の時間だよっ!

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