零落遊戯(レイラクパラドクス)──夢幻泡影×無限抱擁

玖珂澪0(くがみおぜろ)

第1話 泡影の予兆


 思えば、あの日から世界の色は少しずつ剥がれ落ちていた。


 九十九爽は、その変化に気づいていたはずだった。

 何気ない日常の光景が、どこか "薄い"。

 感情の輪郭が、まるで霧に包まれたように曖昧。

 

 朝焼けの中、窓辺に立つ。空は赤いのに、心はどこか灰色だった。

 

「……また、夢を見た」


 呟く声が、硝子のように冷たい空気に消えていく。


 その夢には、名も知らぬ少女たちが現れた。

 それぞれが違う色を纏い、違う言葉を持ち、違う悲しみを抱えていた。

 

 そして最後に現れる、白い指先。

 触れた瞬間、夢は砕け、目覚める。


 誰かが——泣いていた気がする。

 

 ——それが“始まり”になるとは、まだ気づいていなかった。


 


 爽の通う学園は、見慣れた制服と見慣れた朝の雑音で包まれていた。

 

 けれど、その中心に、見慣れない違和感があった。

 

「おい、聞いたか? また転入生だってよ」

「マジで? この前も来たばっかなのに……」


 その言葉が、どこか不自然に響く。

 まるで“定期的に設定された変数”のように。


 爽は窓際の席で、目を伏せたまま朝の空気に耳を傾けていた。


 そうして始業のチャイムが鳴る直前、教室の扉が開く。


「はぁい。あたしが新しい転入生、田柴芹那。よろしくね〜?」


 その瞬間、時間が歪んだ。

 言葉ではない“何か”が、脳の深部で跳ねた。

 

 視線が合う。

 燃えるような瞳、勝ち気な笑み。


 だが——その奥にあったのは、火ではなく、

 どこまでも冷たい、灰色の氷だった。


 照応。


 それが最初だった。


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