零落遊戯(レイラクパラドクス)──夢幻泡影×無限抱擁
玖珂澪0(くがみおぜろ)
第1話 泡影の予兆
思えば、あの日から世界の色は少しずつ剥がれ落ちていた。
九十九爽は、その変化に気づいていたはずだった。
何気ない日常の光景が、どこか "薄い"。
感情の輪郭が、まるで霧に包まれたように曖昧。
朝焼けの中、窓辺に立つ。空は赤いのに、心はどこか灰色だった。
「……また、夢を見た」
呟く声が、硝子のように冷たい空気に消えていく。
その夢には、名も知らぬ少女たちが現れた。
それぞれが違う色を纏い、違う言葉を持ち、違う悲しみを抱えていた。
そして最後に現れる、白い指先。
触れた瞬間、夢は砕け、目覚める。
誰かが——泣いていた気がする。
——それが“始まり”になるとは、まだ気づいていなかった。
◆
爽の通う学園は、見慣れた制服と見慣れた朝の雑音で包まれていた。
けれど、その中心に、見慣れない違和感があった。
「おい、聞いたか? また転入生だってよ」
「マジで? この前も来たばっかなのに……」
その言葉が、どこか不自然に響く。
まるで“定期的に設定された変数”のように。
爽は窓際の席で、目を伏せたまま朝の空気に耳を傾けていた。
そうして始業のチャイムが鳴る直前、教室の扉が開く。
「はぁい。あたしが新しい転入生、田柴芹那。よろしくね〜?」
その瞬間、時間が歪んだ。
言葉ではない“何か”が、脳の深部で跳ねた。
視線が合う。
燃えるような瞳、勝ち気な笑み。
だが——その奥にあったのは、火ではなく、
どこまでも冷たい、灰色の氷だった。
照応。
それが最初だった。
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