第31話 ヴェルランディアの夜明け!光と闇の戦端

 夜明け前、ヴェルランディア城の城壁は緊迫した空気に包まれていた。遠く地平線の先には、黒き波のように押し寄せる悪魔軍の大軍勢が蠢いている。まだ陽の光が届かぬ闇の中で、敵の気配がより一層濃厚に感じられた。


「……来るぞ。」


 城壁の上で、ヴェルランディア王国騎士団の指揮官が低く呟いた。兵士たちはそれを聞き、息を詰める。手にした弓や槍が僅かに震えている者もいたが、誰一人として撤退を考えてはいなかった。


「総員、迎撃の準備を整えよ!」


 鋭い号令が響くと、城壁の上では弓兵たちが矢をつがえ、魔導士たちは詠唱を始めた。下層では槍兵たちが城門前に布陣し、盾を構える。誰もが押し寄せる悪魔の群れに備えていた。

 やがて、大地を揺るがす振動と共に、悪魔軍の先鋒が接近した。その最前列に立つのは、巨大な双角を持つ魔族将軍グルオム。


「人間どもよ、震えて見届けるがいい……!」

 彼は戦斧を振り上げると、その合図を受けたかのように、悪魔軍全軍が一斉に突撃を開始した――!


***


「弓兵、構え! 第一波、撃て!!」


 指揮官の叫びが響く。城壁の上から放たれた無数の矢が、悪魔軍の最前線へと降り注いだ。鋭い矢先が漆黒の肌を裂き、敵の前衛が次々と地に倒れる。しかし、それでも彼らの進撃は止まらない。倒れた仲間を乗り越えるように、後続の悪魔たちが前へと押し寄せる。


「第二波、放て!!」


 再び矢が放たれ、続けざまに魔導士たちが炎や雷の魔法を撃ち込む。爆発音と共に炎が辺りを焼き払い、雷撃が悪魔たちを貫いた。しかし、それでも後方の部隊が魔法障壁を張り、進軍の速度は緩むことはなかった。


「奴らの防御が固い……! このままでは、押し切られるぞ!」

 指揮官が唇を噛む。


「投石機を準備しろ! 城門前に向かって撃ち込め!!」


 巨大な投石機が稼働し、城門前に迫る悪魔たちへ向けて岩が降り注ぐ。直撃を受けた悪魔の部隊が吹き飛び、瓦礫の下敷きになっていく。しかし、それすらも後続の悪魔たちが踏み潰し、じわじわと城へと近づいていた。


***


 槍兵たちが城門前で必死に踏みとどまっていた。


「槍を構えろ! 城門を死守せよ!」

 騎士団長が叫ぶも、兵士たちの動きには焦りが滲んでいた。


「ぐっ……!」

 巨躯の悪魔が槍兵を弾き飛ばし、地面に転がした。そのまま爪を振り上げるが、別の兵士が盾を構え、寸前で受け止める。


「負傷兵を後方へ! 盾兵は縦列陣形を維持しろ!」

 騎士団の精鋭たちが前線に立ち、敵の猛攻を受け止める。しかし、次々と兵が倒れ、盾も槍も血に染まり始めていた。


「このままでは、持たない……。」

 城門を挟んで、戦況は悪化の一途をたどっていた。


***


 ヴェルランディアの街並みが遠くに見えてきた。


「……間に合わなかったのか!?」

 クローが歯を食いしばりながら叫ぶ。


「まだ城は落ちていない! 急ぐぞ!」

 ブレインが声を張り、ヴァルハイトを加速させる。


「ゼルフィード、速度を上げろ!」

 ウイングも手綱を引き、風を切る。


「先に行くわ!」


「え?ヴァニット!」

 ティアー(ヴァニット)がひと際鋭い眼光を向け、漆黒の翼を大きく広げた。飛竜よりも速い速度で、一気にヴェルランディアの上空へ飛び込んでいく。


***


 城門前、ヴェルランディアの兵たちはすでに限界を迎えていた。


「ここまでか……。」

 誰かが呟いた、その時だった。上空から黒い影が急降下し、闇の刃が大地を裂いた。


「……随分と派手な戦場じゃない?」

 その声とともに、戦場の中央に舞い降りたのはティアーだった。


「影鎌の舞。」

 大鎌を振り上げると、黒い斬撃が空を切り悪魔の兵たちが次々と崩れ落ちる。兵士たちは呆然とした。


「ヴァニットだと!? どうしてここに……!」

 かつての敵だった悪魔が、今は味方として戦場にいる。兵士たちの驚きは大きかったが、それ以上に敵に与えた衝撃は計り知れなかった。


「随分と怯えてるじゃない。さあ、もっとかかってきなさいよ!」

 ティアーは不敵な笑みを浮かべ、大鎌を構える。


***


 ヴェルランディア城の広場へと、クローたちが次々と降り立った。


「ようやく着いた……!」

 カイが荒い息を吐きながら翼を畳み、地面に降りる。クローは飛竜の首を軽く叩いた。


「ここまでありがとう、カイ。休んでいてくれ。」


 ゼルフィードとヴァルハイトも着陸し、翼を閉じる。長時間の飛行の疲れが見て取れた。


「ここからは俺たちが戦う。」

 クローはカイを休ませると同時に、すぐさま爪を構えて戦場に飛び込んだ。


「ヴァニット! そっちはどうだ!?」

 敵を薙ぎ払いながら、クローはティアーの方へと目を向ける。


「問題ないわ。」


 ティアーは戦場の中央で、単独で悪魔軍を蹂躙していた。漆黒の翼を広げ、大鎌が黒い閃光を放つたびに、敵の首が飛ぶ。


「フン、こんな雑魚ども……!」


 彼女は軽々と戦っていたが、さすがに数が多すぎる。

 クローは即座にティアーの背後を取ろうとする敵を察知し、咄嗟に駆けつけた。


「ヴァニット……後ろだ!」


 クローの炎の爪が、ティアーの背後に回り込んだ悪魔の大剣を弾き飛ばす。


「……助けられるなんてな。」


「お前、実は結構疲れてるんじゃないか?!だから休めって言ったのに。」


「しょうがないでしょ。私だって気になって寝れなかったんだ」


「ヴァニット……。」


クローは、ティア―が本当に変わったのだと実感した。ハートや仲間たちと触れ合ううちに、彼女の中に仲間意識や優しさが芽生えたように思えた。かつての彼女とは違い、今は人と悪魔との境を超え、絆を大切にする姿が見えるのが心から嬉しかった。


「ヴァニット、ありがとう。俺たちの為にこんなに必死になって戦ってくれて………。」


「何言ってんの?当たり前でしょ」


「当たり前か、そうだな!へっ。俺、お前のことが本当に好きになってきたぜ!」


「ん?え?!え?!」


 二人は背中合わせになりながら、次々と押し寄せる悪魔兵たちと対峙した。


***


 その時――


 戦場の奥から、巨大な影がゆっくりと前へ出てきた。


「お前が……ヴァニットか。」

 悪魔軍の指揮官 グルオム が、ティア―に向かってにやりと笑う。


「裏切り者が、敵として戦っているとはな。実に笑える話だ。」


「フン、くだらない言葉遊びね。今さら私を説得しようって?」

 ティア―は大鎌を構え、冷たい目でグルオムを睨みつける。


「いや……お前には死んでもらうだけだ。」

 グルオムが地面を蹴り、一瞬で距離を詰める。


「――ッ!」


 ティア―が構える暇もなく、巨大な戦斧が彼女を狙って振り下ろされた。


 だが――


「なっ!?」


 ティア―の目の前で、クローがその斧を両腕の爪で受け止めていた。


「お前、なんで……!?」


「……仲間だからな!ヴァニットがみんなを守ってくれるんなら俺はヴァニットを全力で守る!!」

「いらないわ!私が回復魔法あるの知っているでしょう?自分の面倒くらい自分でみれる!」

「だとしてもだ!」

「それでお前が死にかけてもか?!」

「当たり前だろ!!」


 クローは力を込め、戦斧を弾き返した。ティア―はその言葉に、一瞬動揺した。


(なんで……こいつは……。)


 彼女は思わずクローの顔を見つめる。額から汗を流しながらも、必死に彼女を守ろうとするその姿に、心がざわつくのを感じた。


(こんなこと、誰もしてくれたことなんて……なかった。)


「おい、ぼーっとするな!!」

 クローの叫びで、ティア―はハッと我に返る。


「分かってる!」

 大鎌を振り上げ、ヴァニットはグルオムの胴体を薙ぎ払った。だが、悪魔将軍はわずかに後退しただけで、涼しい顔をしている。


「フン、面白い。貴様ら、二人まとめて砕き潰してやる!!」

 グルオムは再び大斧を振り上げた。


 しかし、その時――


 戦場全体が、一瞬、淡い光に包まれた。


***


 ヴェルランディア城の王城の一室――


 ハートの意識の奥では、仲間たちの戦いが映し出されていた。クローが傷だらけになりながら戦っている。ヴァニットも必死に立ち向かっている。


「……みんなが……戦ってる……。」


 彼女の胸の奥が、強く締めつけられる。


「……行かなきゃ……!」


 その瞬間――


 彼女の体から、光が溢れ始めた。


「……私は……!」


 結城 柚希の瞳が、ゆっくりと開かれた。


***


 同時にヴェルランディアの戦場にも変化が訪れる。空から降り注ぐ眩い光、それはまるですべてを癒し、浄化するかのように戦場を包み込んだ。


「……この光は!?あの時の……。」


 ティア―が目を見開く。クローも光の中に見慣れた少女の姿を見た。


「柚希……!!」

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