第23話 光が照らす道

 黄金の閃光が夜空を切り裂き、雨の中に満ちる漆黒の闇を押し流していった。

 嵐の中心で、ハートが飛び込んだ瞬間、光と闇が激しくぶつかり合い、爆発的な輝きが戦場全体を包み込む。


 蛇竜たちは光が触れた瞬間、抗う間もなくその光に飲み込まれ姿を消していった。黒い軍勢が次々と光の中に溶け込む中、嵐の勢いも弱まり雷鳴が遠ざかっていく。


 激戦を繰り広げていたドラゴンナイツたちは、その奇跡のような光景に目を奪われた。


「……今の光は、一体……?蛇竜だけが一掃されただと?」

 ブレインが、剣を握り直し周囲を見渡す。


 残ったナイツたちは、自らの武器を握る手に力を込めた。

「この光の奇跡を無駄にはできない!ブレイン! あの光の出どころに、ハートが向かうのを見ました。そしてそこにクローもいます!」


「ハートが来ている?!では、あの光はハートの力か?」


「おそらく…………。ブレイン、敵の攻撃が薄くなった今が好機です!クローたちと共に光の扉へ向かい撤退してください!ここは我々が食い止めます!」

 ホーンが叫ぶ。その言葉に呼応するように、負傷しながらも立ち上がった仲間たちが声を上げた。


「何を!?そんなことはできん!俺はドラゴンナイツのリーダーだ!お前たちを盾に撤退などできるか!!」


「聞いてください……。今の戦力ではもはや天空城を、奴らを討つことはできません。貴方も気づいているはずだ。天空城側にはまだ、あの男もいるんですよ!」


「しかし!」


「クローとハートはドラゴンナイツの、我々の、最後の希望です!そして二人を導くためには、優秀な指揮官である貴方が必要なんです!貴方たちは、生き残らなくては駄目だ!……それに、私はもう長くはない…………。」


 ホーンは腹部から流れる血を手で押さえながら小さくつぶやく。それを見て察したブレインは、ホーンの覚悟に胸を締め付けられる思いだった。


「師匠…………。」


「行け、リューガ。」


 ブレインは厳しい表情で戦場を見渡し歯を食いしばった。彼もまた、戦い続けることが己の役目だと理解していたが、同時に、彼らが命をかけて戦場に残ることの意味も分かっていた。ホーンの部隊のナイツたちも強い瞳でブレインを見つめる。


 ブレインは拳を握り、静かに頷いた。


「分かった……クローたちを退かせる!」


 ホーンをはじめとするナイツたちは、最後の力を振り絞り、前線へと駆け出していった。彼らの背中が光に照らされ、決して折れることのない誇りを感じさせた。


***


 光が消えた直後、ハートの小さな体は力なく空中を落ちていった。


「柚希!!」


 クローが叫び、カイを急降下させるが、その前にアーマードワイバーンのリンドが舞い降り、背中で彼女を受け止めた。そして、ゆっくりと下の大地へと着地し、追ってカイとヴァニットも降下する。

 駆け寄る二人、リンドの背にそっと横たわるハートの顔は、血の気を失っていたが、穏やかな表情を浮かべていた。


「柚希!無事なのか!」

「ちょっと、張り切りすぎたかな……。夢中でよくわからなかったけど、私のあの光が二つの光を吸収してより大きな光になって広がったの……。」


「ハート………。」


「ヴァニット……。」


「私は…………。」


「ヴァニット、これはあなたの望みじゃないはず。あなたもこの戦争を終わらせたいと思ってるんじゃないの? でも、その方法が分からないだけなんでしょ?」


「わかっている。お前たちを消せばいいんだ。そうすれば私は、私の故郷に帰れる。私の仲間に会えるんだって……。」


「故郷……?仲間……?」

 その呟きに、クローがゆっくりと近づいた。


「あの時、あなたは私を攻撃することをためらった。本当は人を殺したくないんでしょう? ヴァニット、あの廃墟の村をみたでしょう?ガーデについていたら世界があんな結末になってしまう、あれがあなたの望む未来なの?」

 ハートはヴァニットをじっと見つめ、その声を真剣に届けようとした。ヴァニットの瞳が僅かに揺らぐ。


「私は…」

 ハートの言葉に、ヴァニットは鎌を握る手を震わせた。ハートはリンドの背から降り立ち、ヴァニットに一歩ずつ近づいた。


「あなたには、もっと違う道があるはずよ。私たちと一緒に戦って、この世界を救う未来を作ろう。」

 ヴァニットはその言葉を聞き、顔を伏せたまま答えた。


「私が…世界を……未来を救う?」

「そうよ。私たちと一緒に戦えば、きっと違う道が見つかる。」

 ハートは震える手を伸ばし、ヴァニットに向けて差し出した。


「そうか、私は…ずっと間違っていたのかもしれない…。」

「間違いなんて、誰にだってあるわ。」

 ハートは微笑みながら手を差し出した。

「間違うことが駄目なんじゃないの、それを変えるために行動できるかどうかが大事なの。変えられるわ。だから…ヴァニット……お願い……。」


 しばらくの沈黙の後、ヴァニットはゆっくりと顔を上げた。彼女の目には新たな決意が宿っていた。

「分かった…私の力が必要なら、貸してやる!」


 ヴァニットの指先がハートの手に触れた瞬間、眩い光が彼女を包んだ。


「……何だ、この光……!?」


「これは、俺たちがナイツになった儀式の時の光か?」


 ヴァニットの体が宙に浮かび、魂の解放ソウルリベレーションの光が彼女を包み込んでいく。黒きドレスに徐々に鎧が彩られ、新たなドラゴンナイツの紋章が浮かび上がった。


 クローはその光景を目の当たりにし、息を呑んだ。

「ヴァニットが……ドラゴンナイツに……?」


***


 その時。

 周囲の暗闇が不穏に蠢き、血のように赤い瞳を輝かせる悪魔たちが、闇の中から一斉に飛び出してきた。


「うっ!」

「下がってな。」


 静かに呟いたヴァニットの瞳が淡く光を帯びる。すると、闇が蠢き、漆黒の鎌がまるで彼女の意思に応えるように手元へと現れた。

ヴァニットは無駄のない動きで鎌を振るい、その刃は漆黒の波動を纏いながら宙を裂く。

次の瞬間――悪魔たちの群れが一閃に切り裂かれ、悲鳴を上げる間もなく、その身体は霧のように消え去っていった。


「……悪くないわね。この力。」

 ヴァニットは手を見つめ、戸惑いながらもその力を受け入れた。


「良かった……。ありがとうヴァニット……。颯太……。」

「柚希……?」

「ごめんね、最後に……。強引なお願いになっちゃうんだけど……。」

「おい、何だよ柚希!」


「ヴァニットと……リンドのこと……、お願いね……。」

 その様子を見届けたハートは力を使い果たし、意識を失った。


「柚希!!」「ハート……?!」

 クローは慌てて彼女を抱きかかえた。


***


「クロー!ハート!」

 そこにヴァルハイトを操りながらブレインが着地してきた。


「ブレイン……!」

 クローは弱々しい声で叫ぶ。


「クロー?ヴァニット?!ハートは。これは、どういう状況だ!お前のその鎧は、なぜヴァニットがナイツの鎧を」

 ブレインが剣を構えながら現状に困惑する。


「柚希が……。目を覚まさないんだ…………。」

 ブレインはハートがすでに息絶えてしまったのかと思い、慌てて駆け寄る。しかし、彼女の小さな呼吸と外傷の様子から無事であることを理解して安堵した。


「安心しろ!とりあえずは大丈夫だ。ヴァニットはなんなんだ?!」

「ドラゴンナイツの指揮官ならこれを見てわかるだろう。そういうことだ。」

「ことです、だ。」「ことです。」


 ブレインは会話からヴァニットが今、ドラゴンナイツ側だということを感じ取った。

 そして険しい表情で周囲を見渡す。


「……時間がない。とにかくここを脱出するぞ!」

 その言葉にクローは顔を上げた。ハートを抱きかかえる彼の表情には、仲間を失った悲しみと怒りが入り混じっていた。


「でも、天空島を解放するために俺たちはここまで来たんじゃないのか!?ここで退いたらファングたちの死が……!」


「今は無理だ。全滅してしまえば、それこそ奴らの思う壺だ。」

「そいつの言う通りだ。今出ているガーデの戦力は、ほんの一部でしかない。島に降りればさらに大勢がお前たちに襲い掛かってくるぞ。」

「ブレインだ。」「ブレインの言う通りです。」


 ブレインとヴァニットの冷静な言葉が、クローを一瞬黙らせた。


「クロー、俺たちは生きて再びガーデに挑むことを、ドラゴンナイツのみんなに託されたんだ!」

「………分かった。くそう、絶対に、必ずここに戻ってくるからなぁ!」

 クローは口惜しさを残し、天空城ガーデに向かって吠えた。


「よし、撤退するぞ!ヴァニットもついてこい!」

 ブレインが叫び、全員が光の扉を目指して飛竜を走らせた。


***


 撤退を始めたドラゴンナイツの一行だったが、光の扉付近に近づくと、背後から追撃の敵軍が迫ってきた。翼を持つ黒い騎士たちと再び現れた蛇竜の群れが嵐のように押し寄せてくる。


「くそっ!」「ここまでか…!」

「いいや、間に合ったみたいだぜ!」

 クローがカイを操りながら前方を見ると、ウイングが槍を構え、鎧の翼を広げて単独で向かってきていた。


「何をしてるんだ、ウイング!!」

 ウイングはクローたちと空中ですれ違い、静かに笑みを浮かべた。


「俺が残ってこっち側から光の扉を閉める。お前たちは、そのまま行け!」

 その手には天空の鍵が握られていた。


「ふざけるな! お前を置いていけるわけがないだろ!」

 クローが叫ぶが、ウイングは首を振った。


「誰かが天空の鍵を破壊して、扉を閉じなきゃいけないだろ。それがおあずけ食らってた俺の役目だ。全く、想像してた最悪の展開が当たっちまったぜ!」

「そんな…!」

 クローが必死に反論しようとする。だが、何も言葉が出てこなかった。


「ロークス!!」

「リューガ!ゼルフィードのことは頼んだ!!」

 ウイングは天空の鍵を手に取り、最後にクローに目を向けた。


「頼むぞ、颯太。俺たちの未来を守ってくれ。」

「ロークスーー!!!」


 ウイングは天空の鍵を槍で破壊する。三つに砕けた鍵は小さな光を放って四方へと飛び散った。光の扉を抜け、天空の祭壇へと戻ってきたクローたちは、閉まっていく光の向こうで敵に突っ込んでいくウイングの姿をただ眺めることしかできなかった。やがて光の扉が消え、天空城へと繋がっていた道は閉ざされた。



数名の生存者を残し、ドラゴンナイツは完全に敗北した。

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