第8話 呪われた森への足跡

 ジ・ザルギルとの激闘から数日が経過した。ドラゴンナイツたちは勝利を収めたものの、天空城の脅威はなお続いており、次なる戦いに向けて準備を整えていた。


 その日の朝、クローは訓練場でフレイアと共に軽い戦闘訓練をしていた。フレイアの動きはいつも通り軽快で力強く、戦闘中に負った傷もほとんど回復しているように見える。


「フレイア、お前の調子も良さそうだな。頼もしいぜ。」

 クローが笑顔でフレイアの首元を撫でると、フレイアは低い唸り声を上げて応える。その仕草にクローは満足そうに頷いた。


「次の戦いも頼むぞ、お前がいればどんな敵だって負ける気がしない。」

 その時、遠くから足音が聞こえ、ブレインが現れた。彼の表情はいつになく厳しい。


「クロー、急いで全員を集めろ。天空城の新たな情報が入った。」

「何だって!」


***


 ブレインに呼び集められたドラゴンナイツたちは、広間に設置された地図を囲んでいた。その中央に立つブレインが低く重い声で語り始める。


「天空城の動きが活発になってきた。次の刺客は“ナグ・サハル”――コブラの祈祷師だ。」


「ナグ・サハル…?」

 ハートが眉をひそめながら呟く。その隣でウイングが槍を肩に担ぎながら険しい表情で口を開いた。


「聞いたことがある。確か、天空城の魔法を司る幹部だよな。呪術とか祈祷とか、そういう薄気味悪い術に長けているって話だ。」

 ウイングの言葉に、ブレインは静かに頷いて続けた。


「そうだ。ナグ・サハルは呪術によって大地を汚染し、周囲の生物を狂わせる力を持っている。ヤツが支配する場所では、空気そのものが毒に変わると言われている。」


「そんなやつが来るのかよ…!」

 クローは拳を握りしめ、険しい顔をして地図を睨んだ。


「さらに悪い報告がある。」

 ブレインの表情がさらに暗くなる。


「ナグ・サハルは、すでにメルセシア南部の森を占拠し、その毒を広げ始めている。放置すれば、この国全土が奴の呪いに覆われるだろう。」


「なら、早く行かなきゃダメだろ!」

 クローが声を上げる。


「もちろんだ。だが、表立った行動では、逆にヤツを身構えさせてしまうかもしれん。大隊ではいけん。」

 ブレインは剣を腰に収めながら言った。


「ナグ・サハルのいる森へ入るのは、俺とウイング、クロー、そしてハートだ。ファングの部隊は後方で支援を頼む。他、持ち場に付きつつ指示を待て。いいか、よし準備を整えろ!」


 森へ向かうドラゴンナイツたちは、それぞれのアーマードワイバーンに跨り、呪われた森へと飛び立った。


***


 森の入口に到着したドラゴンナイツたちは、その異様な光景に言葉を失った。森全体が紫色の霧に覆われ、木々は毒々しい色に染まり、地面には不気味な模様が刻まれていた。まるで、生き物そのものが腐り果てたような空気が漂っている。


「なんだよ、この場所…!これが…ナグ・サハルの呪いの影響か。」

 ウイングが眉をひそめながら槍を握り直す。


「ここに長居するのは危険だ。迅速に動くぞ。」

 ブレインが剣を構えながら言った。


 クローはフレイアの背中を軽く叩きながら、前方を見つめる。

「フレイア、行こう。俺たちでこの森を元に戻すんだ。」


 ブレイン、ウイング、クロー、ハートはそれぞれのアーマードワイバーンと共に、紫の霧の中に向かって降りていった。


***


 森の中に足を踏み入れると、さらに不気味な空気がナイツたちを包み込んだ。地面からは低い呻き声のような音が聞こえ、木々の間からは時折不自然な光がちらついている。


「何かがおかしい…ただの森じゃない。」

 ハートがリンドの背中で周囲を見回しながら言った。


「気をつけろ。この霧には何か仕掛けがある。」

 ブレインが厳しい声で言う。


 その時だった。突然、クローの目の前に不気味な蛇の幻影が現れた。それはゆらゆらと揺れながら、彼の目をじっと見つめている。


「これは…何だ!?」


 クローが声を上げるが、その声が霧の中に吸い込まれるように消えていく。そして次の瞬間、その幻影がクローに向かって襲いかかってきた。


「クロー!」

 ハートが叫び、杖を振るって光の弾を放つ。光が蛇の幻影をかき消したが、その衝撃でクローとフレイアはバランスを崩しそうになる。


「助かった、ハート!」

 クローが礼を言いながら体勢を整える。


「これが…ナグ・サハルの呪いの力か。」

 ブレインが険しい表情で周囲を見渡す。


「ふふふ、よくここまで来たな、ようこそドラゴンナイツ。」


 その声と共に姿を現したのは、ナグ・サハルだった。ヘビのように長い体躯を持ち、全身は黒と紫の模様が入った鱗に覆われている。彼の手には骨で作られた杖が握られ、不気味な光を放っていた。


「お前たちの勇気は称賛に値する。…だが、この森も、この世界もすぐに私の呪いに沈むだろう。この霧が全てを支配している限り、お前たちに勝ち目はない。」


 ナグ・サハルは杖を地面に突き立てると、周囲の霧がさらに濃くなり、空気が一段と重くなった。


「全員、気をつけろ! 奴の呪術が本格的に始まるぞ!」

 ブレインが剣を構えて叫ぶ。


 クローもまた、フレイアの背中に跨りながら爪を構えた。

「ナグ・サハル…お前の呪いなんかに負けはしない!」

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