第39話│クリームシチューとバゲット

―「この味、ずっと忘れたくない」



寒波が戻ってきた三月の夜。

日向が玄関を開けると、ふわっとバターとミルクの香りが迎えてくれた。


「おかえり、寒かったでしょ。ほら、座ってて」

キッチンから顔を出した楓は、手を拭きながら笑う。


ダイニングのテーブルには、湯気の立ちのぼる白い鍋と、スライスされたバゲットが並べられていた。


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今日のレシピ│クリームシチューとバゲット


材料(2人分)

・鶏もも肉…200g(ひと口大)

・じゃがいも…2個(皮をむいて4等分)

・にんじん…1/2本(乱切り)

・玉ねぎ…1個(くし切り)

・ブロッコリー…1/2房(下茹で)

・牛乳…400ml

・バター…30g

・薄力粉…大さじ3

・コンソメ…1個

・塩・こしょう…適量

・オリーブオイル…小さじ1

・バゲット…好きなだけ


作り方

1. 鶏もも肉に軽く塩こしょうをふる。鍋にオリーブオイルを熱し、肉の表面に焼き色をつけて取り出す。

2. 同じ鍋でバターを溶かし、玉ねぎ→にんじん→じゃがいもの順に炒める。

3. 火を止めて薄力粉をふり入れ、粉気がなくなるまでよく炒める。

4. 牛乳を少しずつ加えながらのばし、コンソメと鶏肉を戻し入れ、弱火で20分ほど煮込む。

5. 最後にブロッコリーを加え、塩こしょうで味を調える。

6. トーストしたバゲットを添えて完成。


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「……あったかい」

スプーンで一口すくって口に運んだ日向が、そっと呟く。

じゃがいもは柔らかく、とろけるような食感。ミルクのやさしさが、寒さで固まっていた心まで解かしてくれる。


「どう? ちゃんととろみ、出てる?」

楓が少し不安そうに聞いた。


「うん、ばっちり。……この味、ずっと忘れたくないくらい、おいしい」

目を合わせて笑った日向に、楓の耳がすこし赤くなった。


「大げさ……でも、ありがと」


バゲットにシチューをのせて食べるたびに、口元がほころぶ。

ふたりで「あ、ブロッコリーいい感じ」「鶏肉、柔らかいね」なんて言い合いながら、鍋はあっという間に空っぽになった。


「こんな夜、ずっと続けばいいのに」

何気なくこぼれた日向の言葉に、楓はスプーンを持つ手を止めた。


――ほんとに、そうだね。


心の中でだけ、そっと答えた。



次回は「ホットケーキとはちみつバター(休日の午後)」


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