英雄

 僕のお店には実に多種多様な人たちが訪れる。

 本当に多種多様な人たちだ。王侯貴族から一般市民。なんでもござれだ。


「し、失礼するぞ……っ」


 そんな当店に、一人の女性がやってくる。

 その女性は鎧でその身を包んだ実に凛々しいお人だった。

 腰まで伸びる長い金髪に宝石のような輝きを携えた緑の瞳。顔立ちは実に整っており、その体つきも凄い。鎧の上からであっても豊満な体つきであることがわかる。

 そんな、絶世の美女とでもいうべきお人なわけであるが、それよりも目に引くものがある。


「エルフの耳っていいよね」


「い、いきなりなんだ!?」

 

 それが、彼女の持つ大きな耳だ。

 異世界と言えば、で出てくる亜人。獣人であったり、エルフであったりというのもこの世界には存在していて、今、目の前にいるお客さん


「それでは、英雄テール。貴方は何の用で当店に?」


「うぐっ!?」


 そんな彼女の名前はテール。

 長命種たるエルフとして百年以上を生きた御仁であり、その生涯の中で幾つもの戦いを乗り越えて戦果を挙げてきた生きる伝説。英雄としてこの国に仕えるとんでもない人だ。

 ちなみに、エルフに男性は存在しない。人間の男と結ばれる他、子供を作る方法というのはない。


「とはいえ、このお店に来る人が望むことなんてたった一つだろうけど」


「~~ッ」


 僕の言葉を受け、テールは表情を真っ赤に染めあげ、謎の悲鳴をあげる。


「わ、私は国の英雄で……っ!け、決してえっちなことなど何も望むことはない!」


 しかし、その中からもテールは盛り返し、こんな店に来ておきながらも啖呵を切って見せる。


「ふぅー」


 そんなテールに対して僕は彼女のすぐそばにまで近づき、そのまま耳にふーっと息を吐き、そのままゆっくりと撫で上げる。


「はぅわぁぁぁぁぁああああああああああああああ」


 それを受け、テールは悲鳴を上げて無様にも崩れ落ちていく。

 その様からは、彼女が英雄であることなど見えるはずもなし。


「様式美だね!ここまでは!」


 テールは毎回こんな感じだ。

 むっつりスケベでありながら、英雄としての自分をもって常に凛としていなければならないという強い意思があるせいで、毎回こんなやり取りをする羽目になっている。


「……う、うぅ……今日も、お願いしていいか?」


「貴方は英雄様ですからね!いつも仕事を頑張っていますし、特別扱いさせてもらいますよ。守られている身でありますから。労ってあげる」


「あ、ありがとう……ほ、本当に。今の私にとって、この時間だけが、この時間だけが癒しなんだ」


「それはそれは実にありがたい話ですね!それじゃあ、行きますよー!」


 よよいのよいと、僕はテールを連れて奥の部屋へと入っていった。

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