第二帖:空の書きかけ



空に


絵を描いたみたい。


筆の跡?


いや、


誰かの落書き?


雲って、


ほんとうに


不思議。




***


ニャルキオは夢のなかで空を仰いだ。


「空になにか書いてある…落書き?」


雲に描かれた筆跡が、知らない文字に見えた。



「にゃー坊には そう見えるか。これは記憶さ」


傍らで旅商人コンギツが答えた。



「これが…空の記憶?」



ニャルキオの問いに、コンギツがにやりと笑った。


「だれかが、忘れた神さまの名前を描いたのかもしれんね」



ニャルキオはうなずき、


空にひかれた線をなぞるように指をのばした。


雲は消えていく。


けれど、なにかが胸の奥に、


確かに残っていた。




〔注記〕


この夢は、“空書そらがき”と呼ばれる記憶片に基づくものです。


にゃー大陸の空には、神々が筆のように雲を走らせ、


言葉にできないものを空へと描き遺したといわれています。



***



元ネタは、エジプトのルクソールの空と雲の一枚の写真です。


神々が雲を筆にして空へ描き遺した文字…




その文字は、どこか古代の象形に似ているが、決して誰も知らぬ筆跡。


まるで音のない詩のように、光と影を編む、雲のしずくでできている。



曲線は水面のさざなみのように柔らかく、直線は稲妻のように鋭く、けれど一瞬で消える。


神々が描いたのは、記憶の輪郭だけだったのかもしれない。



ある文字は、春の芽吹きのようにふくらみ、ある文字は、冬の星屑のように冷たく冴える。



神々の筆跡は、風にさらわれていくたびに、新しい物語を連れてくる。


読む者にだけ、瞬間ごとの意味を与えて、言葉ではなく、呼吸のような気配として届く――




そんな、無限の余白を持った文字だったのだと思います。




あなたが見上げるその空には、きっと今日も、誰かの祈りの一筆が漂っているのでしょうか。




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