推しVtuberは自分のことをお姉ちゃんと言い張るストーカーだった
らんら
1
①念願の一人暮らし、わずか二日で終了
「おかえり~」
きっと、この言葉に恐怖を覚えるのはこの世界中で私だけだろう。
いや、この言葉を家族や友だちから言われたんだったら何も思わない。でも、ついさっき高校の入学式を終えた私にはそんな状況は当てはまらなかった。
だって私は、高校に進学すると同時に学校近くのマンションに引っ越したのだ。それもつい二日前。それにさっきまで一緒にいた母親はもう実家のほうに帰ったし、合鍵を持っている相手なんかいない。
だから、私が二日前の名残で言ってしまった「ただいま」という挨拶に返事が返ってくるってことは、私以外入ることができないこの部屋に誰かが侵入したってことだ。
多分この人なんだろうなぁっていう予想はついているが、初めて対面するしこの人とは二度と会いたくなかった。
しかもこの人。声からして若い女性みたいだ。ずっと変態なおじさんだと思っていたから意外だ。
でもこれは好都合だ。扉の奥にいる彼女のせいで足の震えは収まらないけど、相手が女性なら戦えば何とかなる可能性もある。怖いけど。
震えた足を前に出し、ゆっくりとリビングに向かおうとした時。閉められていたリビングの扉が開かれた。
「……へ?」
「今夕ご飯作ってるから、荷物おいて着替えてきて~」
リビングからあらわれた女性は、私よりもはるかに大きいかった。胸も、身長も。
「ちょっ、ちょっと待って!!」
「ん?」
まるでうちにいることが当たり前かのような素振りをしている彼女が、振り返ってリビングに戻ろうとしていたので呼び止める。
顔だけこっちを向ける彼女。その顔つきは認めたくないが、とてつもなく整っていた。
穏やかな印象を与えているたれ目に小さな鼻、薄いピンクのリップが塗られている艶やかな唇。瞳と同じ栗色の髪は、腰まで伸びていて先端で緩く巻かれている。
見るからにおっとりとしたお姉さんな彼女は、堂々と私がこの前もらったサイズ違いで着れなかったエプロンをつけている。その中にはゆったりとしたスウェットを着ていて、まるで家に泊まりに来ている友だちのような恰好をしている。
それと奥から漂ってくる匂いと手に持っているフライから、さっきまでハンバーグを作っていたということが理解できた。
よりにもよって、私の大好物であるハンバーグを作っていた。やっぱりこの情報を知っているってことは、この人が犯人なんだろう。私のことを一年近く苦しめ続け、こうやって引っ越すことになった原因になった犯人。
「どうしたの?」
「……あなた、ストーカーですよね?」
「え、うん」
悪びれもなく頷いた彼女は、私が中三に上がりたての頃からほとんど毎日ストーキングしてきたストーカーだった。
実際に容姿を見ることは一度もなかったが、外にいるときは常に視線を感じていたし、ちょくちょく家にあるものが新品とすり替えられていた時もあった。本当にひどいときは、私のお気に入りだった服や下着を持って帰り、多分この人の趣味であるゴスロリ系の服と純白の下着にすり替えれていた時があった。
でも一番怖いところは、このストーカーは私のことを知りすぎている。スリーサイズに登下校のルート。スペアキーの場所に私の生活リズム。何から何まで知り尽くしている。もしかしたら、音沙汰なく行った引っ越しもばれていたのかもしれない。
それに今日私がスマホをリビングに忘れてきたこともきっと知っていたのだろう。だから、このチャンスの日に侵入してきたんだと思う。
「とりあえず、リビングに行かない? 料理途中なの」
「……わかった」
彼女についていきリビングに入ると、やっぱりハンバーグの匂いがしてきた。
そして私は、荷物をそこら辺において机のそばに座る。ストーカーは鼻歌を歌いながらハンバーグを盛り付け、こっちまでやってきた。
「はい、亜理紗ちゃんの大好物だよ」
「…………」
こんなにも嬉しくないハンバーグは初めてだ。やっぱり、料理ってやつは作り手によってこんなにも禍々しい物になるのか。
そしてサラダと味噌汁、取り皿とご飯を持ってきて彼女は「いただきます」と言って食べ始めた。
「ちょっと待って。食べる前に教えて」
「ん?」
「なんで引っ越したの知ってるの。それでなんで夕飯なんか作ってるの」
おいしそうにハンバーグを食べていた彼女はいったん箸(コップも箸も私用しかなかったため、使い捨ての奴を自分で持ってきたみたい)を止め、私の目をじっと見つめて微笑んできた。
「亜理紗ちゃんは知らないと思うけど、あなたの部屋に監視カメラと盗聴器を何台も仕掛けてたの」
「…………は?」
「だからここに引っ越してくることは知っていたし、この部屋の鍵を実家にある勉強机の三段目の引き出しに入れてたのも知ってたよ」
表情を変えず、微笑みながら淡々と話す彼女に恐怖を覚えた。
監視カメラを仕掛けていたことは知っていたし、実際に私が回収したものが一台残っている。でも、まさか盗聴器も仕掛けて更にカメラを何台も仕掛けていたなんて。
ストーカーなんてする人だから人の常識なんて通用しないと思っていたけど、まさかここまでのことをしてくるとは思っていなかった。
「それで学校行っている間に部屋に入って鍵貰って、合鍵を何本か作っておいたの。しかも、亜理紗ちゃんが引っ越してくる前に部屋に置いていたカメラと盗聴器を回収してこの家にも仕掛けておいたの」
まさか、引っ越してくる前にこの部屋はもう毒されていたなんて。せっかく逃げられると思って無理を頼んだのに、そんなことすらストーカーの前では無意味だった。
この変態ストーカーを早く通報したかったけど、リビングの机には私のスマホがなかった。多分、スマホを持ってないことを知っていたから今日侵入してきたのだろう。
「きっ……きもちわる……」
「ふふふっ、そんなこと言わないでよぉ。私だって本当はばれずに侵入を続けようと思ったんだよ? でも、亜理紗ちゃんが昨日あんなこと言うせいで、私が助けないと! ってなったの」
「なっ、なんて言ってたの?」
普段独り言なんて言わないし、もし言ってたとしてもストーカーが侵入する動機になんてならないけど、脳の整理をする時間が欲しかったので聞いてみる。
「昨日寝言で、おかあさんっ、おかあさんって何度も言っていた。だから私、二日目にしてもうホームシックなのかなって思って」
…………あぁ、確かに昨日、お母さんが出てくる夢を見た。
でも、あの夢の内容は、怪獣になったお母さんとうちで飼っている犬のごる太が戦うって内容で、ごる太が強すぎてお母さんがボロ負けするって内容だった。多分、負けているお母さんを憐れんだ時の声が寝言になったのだろう。
「ホームシックじゃないしもしそうだとしても、あなたが原因なんだけど。それに、ストーカーに来られても嬉しくない!!」
「え、そんなこと言わないでよぉ~! だって亜理紗ちゃん、私のこと大好きでしょ~!」
は、何を言っているんだこの女は。お前みたいなストーカー、誰が好きになるんだ。
「ストーカーなんか嫌いに決まってんじゃん!! 好きになるわけないでしょ!!」
「あぁ〜そんなこと言うんだ……じゃあ、好きだって分からせてあげないといけないなぁ……」
ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら、ストーカーが近づいてる。
「こっ、来ないで!!」
そうは言っても止まるわけがなく、私はストーカーから逃げるために扉まで向かう。しかし。
「捕まえたぁ……ふふ」
すぐに捕まってしまい、あのおっきな体の中に取り込まれてしまう。背中に当たる胸の感触と、わざわざつけてきたであろう私の好きな柑橘系の匂いがすごくうざい。
「はっ、離して!!」
「ふぅー」
「ひゃあ!?!?」
耳に当たる息がくすぐったくて、一瞬だけ抵抗をやめてしまう。そしてその瞬間に、態勢を崩されてストーカーと一緒に地面に座り込む。それと同時に私の手を取り前に出して、体育座りをした私の脛を彼女の両足で固定して動けなくなっている状態になってしまった。
「なっ、何する気なの!? 気持ち悪いっ!!」
「そんなこと言われたら、お姉ちゃん悲しんじゃうなぁ……」
吐息が当たるほど近い距離から、この場面で聞こえてくるはずのない声が聞こえてくる。
「……え?」
「亜理紗ちゃんは良い子だよね? ならお姉ちゃんのことそんな悪く言ったらダメだよね?」
またしてもストーカーではない声が私の耳元で囁かれる。いつもならこの声を聴いて歓喜している所だが、今はこの声から喜びを一切摂取できない。できれば、今一番聞きたくなかった声だ。
逃げられないとわかっていても、胴体をよじり何度も抵抗する。このまま、この声を聴いていたら全てどうでも良くなりそうで怖い。
彼女は繋いでいた手を離し片腕だけで私の両腕を抑え込む。そして、もう片方で机に置いてあったスマホを取った。そして、器用に片手だけでロックを開けてポチポチといじりだした。その動きが私には、怖くて怖くて仕方がなかった。
「離してっ! 偽物っ!!」
「あぁ~そんなこと言うんだぁ……これは、好きだってわからせないとね……」
声からしてすごいにやけているであろう彼女は、私の雑魚い抵抗なんて関係なくスマホをいじり続け、そして途端に指を止めた。どうやら、お目当てのものを見つけたみたいだ。でも私は、何が何でも見たくなかったので目を閉じる。
「ほら見て……ってあぁ~目つぶっちゃダメ~! ほらっ、これ見て? 早くぅ」
「絶対嫌! 無理、まじで!」
「でも見ないと解放しないよ?」
「それでもいやっ!! いやったらいや!!」
我ながら幼稚なことを言っているという自覚はあるけど、でも今はそんなことどうでもいい。こんな真実を知るくらいなら恥をかいてでも現実逃避がしたかった。
しかし、そんな抵抗すら、彼女にとっては無駄だった。
「んっ!?!?!?!?」
「ちゅっ」
もう無敵なストーカーはなんと、急に私のほっぺにちゅうしてきたのだ。しかも、わざとらしくいつもみたいに可愛らしいリップ音を立てながら。
そして私は急にほっぺにやってきた柔らかい唇の感触に驚いてしまい、閉じていた目を開いてしまった。あんなにも固く閉じていたのに、意志までも固くすることはできなかった。
「ぁぁぁぁああ……」
開いてしまった目の前に現れたのは、 私の最推しvtuberである竜胆ロコちゃんのチャンネルのホーム画面。しかし、そこには普段私のスマホで見ているのとは違い動画投稿の欄が増えている。
つまり。
「ふふっ、ほらっ、好きでしょ? ロコお姉ちゃんのこと」
私の後ろにいるストーカーは。私のことを一年近く悩ませ続けたこのストーカーは。
私の大好きな、ストーカー被害中の私を支えてくれた竜胆ロコちゃん本人だった。
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