第3話 七不思議

授業が終わると、椅子を引く音や教科書を閉じる音があちこちで響きはじめた。


そんな中、1人の男子生徒が声を上げる。

「なあ、お前ら、学園の七不思議って知ってるか?」


授業が終わると同時に、男子生徒の一人がそんな話を持ちかけてきた。興味を引かれたクラスメイトたちが集まり、にわかに盛り上がる。


「夜中に一人で廊下を歩いてると、どこにも繋がってない扉が....?!」 


「そんで、その扉を開けたら二度と戻ってこれない....とか?」


「こえー!誰か試してみろよ!笑」


盛り上がる男子たちをよそに、ヴィクターはリアーナと離席し教室を出る。あんな噂話より、次の授業に間に合うかどうかの方がよっぽど重

要だ。


「ヴィクターは七不思議とか興味ないの?」


「ない。あったら学園の治安終わってるし。」

つまらなそうに答えて、あったら面白いんだけどな、と付け加える。


彼女は「そっか」と少し残念そうに笑った。

廊下には、次の授業へ向かう生徒たちが行き交っていた。


石造りの校舎特有のひんやりとした空気の中、ヴィクターは足早に歩く。隣では、リアーナが何か考え込むように俯いていた。


しばらくの沈黙の後、彼女はぽつりと口を開いた。


「....ねえ、もし私が消えてしまったら...ヴィクターは私のこと探してくれますか...?」


「は...?」

ヴィクターは足を止め、彼女の腕を咄嗟に掴んで引き留めた。


「なにそれ。冗談にしては笑えないんだけど」


その言葉に、彼女は微かに驚いたように目を見開き、少し後ろを振り返った。だがすぐに目を伏せ、あえて笑顔を作るようにして言った。


「ほら、さっき変な話聞いちゃったから、本当にあったら怖いなって、...ごめんなさい、やっぱり忘れて?」


ヴィクターは手を放すことなく、しばらく彼女を見つめた。その笑顔の裏に、言い知れない不安を感じた気がした。


しばらく見つめ合ったあと、リアーナは少し悲しそうに笑い、ぱっと前を向いて歩き出す。


「ほら、急がないと次の授業間に合わなくなりますよ?」


ヴィクターは腑に落ちないまま、その背中を追いかけた。モヤの様な違和感だけを胸に残して。

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