うちの猫が未来からやって来たボディガードだった。

温泉ことね

第1話 花火

花火が、飛び跳ねている気がした。

真っ暗な部屋の中、俺の周りで縦横無尽に光の火花が散り、暴れている。

壁を延々と跳ね返っている光もあれば、跳ね返ってすぐに火花を散らせて消滅する光もある。

その景色は綺麗な花火かと思えば、戦地でのおかしな光線のようでもあり、

また久しく見ていない、摩耶山からの神戸の綺麗な夜景のようでもあった。

懐かしくもなったし、憎たらしくもなったし、ロマンチックな気分にもさせられた。


「あ、あー。テステス。ここで1曲。『ハニカミゴンザレス』。」


「ふざけんな!!」


「隊長!!」


俺の怒声と山田の怒声が同時に響く。

特殊コンクリートの部屋の中央。

電気椅子を改造したゴツイ椅子に、俺の身体は固定されている。

椅子から伸びる色んな管を全身に付けられている俺は、息を荒くした。


「『ハニカミゴンザレス』はないでしょう…あれって男慣れしたビッチに

女慣れしていない男が騙される歌じゃないですか。」


「黙れ!あれはゴンザレスさんの、"それでも喜美江が愛しい”という気持ちを美しく歌った曲なんだ。

貴様にゴンザレスさんの気持ちが分かるのか!?」


どうでもいい。お前ら、俺が今から何しようとしているのかわかってんのか。

ゴンザレスさんの気持ちより俺の気持ちを考えてくれ。


「はぁぁ~♪アイラビュー、アイラビュー♪」


天井に空いているポツポツした穴から、マリィの低くて気味の悪い声が響く。


「隊長!!気持ちが悪いです!!」


そんな山田のすがるような声も無視し、マリィは歌うのを止めない。


「喜美江さんの背中から漂う哀しみ~♪脚には戦国武将ッハッ!!」


「いい加減にしろよ」


思いの外低く響いたその声で、音は止んだ。

しばらくスピーカーからは何の音もしなかった。


「ちょっと隊長、長田おさださんマジ切れの声ですよ。ふざけすぎですって」


「え?いや、そんなつもりは…」


うろたえるマリィの声。いつも低くて勇ましい声をしているのだが、

かすれ声でうわずっている。どんなエグイ任務も平気で指示する癖に。

変な所でうろたえるな。


「誤解するなよ、長田。私は今から、史上最強、空前絶後、とんでもない、ありえない程の痛みを経験するであろう貴君に対し、

和ませようと務めたに過ぎないのだぞ」


「…そんなに痛いの?」


俺は思わず間抜けな声を出してしまった。

聞いてないんだが。


「まぁ死なんし、大丈夫やろ。知らんけど。(笑)」


聞き捨てならねぇ。

そう叫ぼうとした時。


「はいっ、山田君。スイッチオ~ン」


俺の顔からは血の気が引いていた。

なぜなら、マリィが関西弁になっていたからだ。

マリィとは俺が中学生の頃からの付き合いだから分かるが、

あいつが関西弁になった時はロクな事にならないと相場は決まっている。


その瞬間、管を通して俺の身体に今までに体験した事のない衝撃が走った。

その衝撃に思わずのけぞる。が、電気椅子と管に固定されていてうまくのけぞる事さえできない。


そして、すぐに大きな衝撃が全身にズンッときた。

トラックにはねられた事はないが、多分はねられたらこんな衝撃なんだろう。

身体全身が熱くなり、管からどんどん熱いものが流れ込んでくる。

管は卵を飲み込み続ける蛇のように、グネグネとのたうち回って俺の身体に

必死で熱いものを送り込んでいる。


叫んで、泡を吹いて、のけぞったりしている内に、

激しい痛みが頭の先からつま先まで襲ってきた。


あまりの痛みに管を引き抜こうとした所で、椅子がリクライニングしていった。

頭の上から覆いが伸びてきて、目の前が暗くなっていく。

足の先からも伸びてきた覆いにすっぽり包まれ、

俺の身体が密閉され、ガスが噴射される。

続いて液体が足元からどんどん流れてきた。


生ぬるい液体だ。


そう思っている内に、俺は意識を失った。

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