第6話

 早朝。窓の外からピチチと小鳥の鳴き声が聞こえて、目が覚める。まるで御伽話のような目覚め方だなあと思いながら、部屋の窓を開けた。


 屋根のふちで小鳥が二匹いるのを見つける。二匹は私が見ていることに気がつくと、慌てて飛び去っていった。


 朝の空気が部屋の中に入ってくる。眼下に広がる景色は、遠い記憶の中にある日本とは全く異なっている。今まではフェトゥの中にいたから実感どころではなかったが、ようやく私は異世界に来たのだと実感できた。


 後ろからガチャリと扉が開く音が聞こえて、振り返る。


「おや。おはようございます。早起きですね」

「……おはようございます」


 そこには、トレーを持ったギルバートさんが立っていた。トレーの上にはスープの入ったお椀が二つと、パンが二つ乗ったお皿が一つ乗っている。スープのお椀からは湯気が立ち上っており、ほのかにいい匂いが漂ってきた。


「食堂から朝食を持ってきました。朝なのでひとまずパンとスープだけですが、足りなければ言ってください」

「ありがとうございます」


 ギルバートさんは備え付けのテーブルにトレーを置き、椅子に座った。私も窓辺から離れ、椅子に座る。

 ギルバートさんは体が大きいから、机も椅子もサイズがあっていないように見える。スプーンも、小さくて持ちづらいのではないだろうか、なんて思う。


 食べてもいいのかな、とギルバートさんを伺うように見ると、ギルバートさんは祈るように手を組み、目を伏せていた。


 異世界にまで来てしまったというのに、この人はそれでも神様を信じているのだな。私はあいにく無宗教だったような気がするが、その姿を見て私も手を組み、目を伏せた。


 見様見真似、それも形を真似ただけで、私はギルバートさんの信じる神様を信じていないどころか知りもしない。知ったとしても信じる気には多分ならないだろう。でも、これが私にできる精一杯の尊重だ。


「……」


 そろそろ終わったかな、と思い目を開くと、バッチリとギルバートさんと目があった。


「……えっと」

「、付き合わせましたね。すみません」


 私が何か言う前にギルバートさんはふいと顔を逸らしてしまった。


「大丈夫です」


 そうしなければいけないと思って合わせたわけではない。そうしたいと思ったからそうしただけだ。

 それだけの言葉が咄嗟に言えなくて、代わりに言ったのはそんな無難な言葉だった。


 次があったなら、そのときはちゃんと言葉にできるだろうか。

 私は食事の間、ずっとそんなことを考えていた。

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