第22話
困った。
これは真剣に困った。
ぺたぺたと軽く蓮の頬を叩いてみるけれど、起きてくれる気配がない。
そもそも私、昴にさえ膝枕なんてした記憶が無いんだけど。
途方に暮れて、半泣きになっている時。
「楽しそうだな」
耳慣れた声が背後から聞こえた。
…コレ、は。
「昴…、さん」
振り返ってみれば、予想した通り昴の姿があって。
思わず『さん』付けで呼んでしまうほど、明らかに機嫌が悪い。
うん、確かにいろいろと誤解を生むような光景に見えなくもない。
ていうか完璧に見える。
逆の立場だったらちょっと泣ける。
だがしかし。
「えっと、あの、蓮が酔っぱらってて、多分本人もただ寝たかっただけだというか、その」
ここで誤解されるのはどうあっても回避したい。
必死になってあわあわと説明すれば、昴が静かに溜め息をひとつ落とす。
…その静かさが怖い。
「…まぁ、遠巻きに見ててなんとなく状況は知ってる」
「そ、それはよかった」
「とりあえず、ソイツのことはそのへんに転がしとけ」
おもむろに屈んだ昴は、右手でぐっと蓮の肩を押す。
その勢いで、膝の上を転がった蓮はごつっと鈍い音を立てて地面に落ちた。
「ぃ…った、」
不機嫌そうな低い声で蓮はそう呟いたけれど、結局は眠気が勝ったようで。
そのまま起き上がることもなく、すぅすぅと寝息を立てていた。
「…多分いまの相当痛かったと思うんだけど」
「この程度で済んだんだからよかっただろ」
しれっと答えた昴は、悪びれる様子もない。
そのまま視線をこちらに向けた彼は、漆黒の瞳で私を射抜く。
「瞳」
「…はい」
「怒られるか、お仕置きされるかどっちがいい?」
何その究極の選択…!
待って、私いま体育祭してるはずなんだけど!
てゆうかほんと誰よ、お酒飲ますリクエストなんてしたの!
「あの、」
「ん?」
「他の選択肢…というのは」
「そうか、なら両方な」
「待…っ、きゃあっ」
立ち上がった昴に、ぐっと身体を持ち上げられる。
もう何度目になるか分からないくらいされてきた、いつもの俵担ぎ。
ここにきてようやくこの小さな騒ぎに気づいたのか、近くにいる紅明のメンバーがぽかんとしてこちらを見ていた。
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