【PV 122 回】『解釈の先に、君がいた。』 〜AI校閲〈ルキ〉と、青春の言葉たち〜
Algo Lighter アルゴライター
【プロローグ】 それは、「赤字」から始まった
窓際の席は、午後の光が差しすぎて、ノートの罫線が読みにくい。
だけど僕は、毎日そこに座っている。理由は単純で、ここが文芸部の指定席だからだ。
今日も、いつものように放課後の部室で文章を書いていた。タイトルは「ありがとうについて」。
――人はどうして、「ありがとう」を口にするんだろう。
そんな、どこか哲学じみたテーマを、僕なりに書いてみた。短いエッセイだけど、自分の中ではかなり丁寧に綴ったつもりだった。
「……完成、っと」
自分の名前を最後に書き込んで、紙をルキの前に差し出した。いや、“画面”の方が正確かもしれない。
文芸部に導入されたAI校閲支援システム〈ルキ〉は、今、僕のスマホ画面の向こうで静かに待機している。クラウド上に常駐していて、部活動支援プログラムの一環で貸与された、いわば“文章の添削アシスタント”らしい。
ルキが音もなく応答する。
《原稿受領。タイトル:「ありがとうについて」。校閲処理を開始します。》
数秒も経たないうちに、スコアが表示された。
《校閲スコア:28点(満点100)》
その瞬間、僕の心に冷たい水が落ちてきた。
「……え、ちょっと待って。28点って、え? マジで?」
《確認:曖昧性スコア:82%。主語の欠落、比喩の多重解釈、語順の読解困難性などが原因です。改善候補を提示しますか?》
「……」
言葉が、出てこなかった。
自信があったわけじゃない。でも、28点なんて。
AI校閲――つまり、誤字脱字だけじゃなくて、言い回しや表現のあいまいさ、読者に誤解を与える可能性まで含めて、“文章のわかりやすさ”や“正確さ”をチェックしてくれるシステム。それがルキだ。
でも。
でもさ。
「“ありがとう”って、言葉は……たぶん、言いたいこと全部なんて、説明できないから、言うんじゃないの?」
《該当文:「ありがとうって、たぶん、言いたいこと全部を言えないときに、人は使うんだと思う。」
→ 曖昧性・論理未解決表現です。文意が3通り以上に解釈されます。
改善案①:「感謝の言葉は、伝えきれない気持ちの代用として使われることがある。」》
「いや、ちがう。そういう“正しい言い換え”じゃなくてさ……」
僕はスマホを伏せた。文字通り、うつぶせにして、画面から目を逸らした。
たしかに、僕の文章はわかりづらいのかもしれない。文法的に変だったかもしれない。
でも、あの一文だけは、変えたくなかった。僕の気持ちが、一番詰まっていたところだから。
《……感情的表現の保留。作者の意志を記録しました。》
ルキが、そう呟くように言った。AIらしからぬ、静かなトーンだった。
そのときの僕は、まだ知らなかった。
このAIが、“僕の気持ち”に、少しずつ引っかかって、変わっていくことを。
そして僕自身も、AIの校閲を通じて、自分の中にあった“言葉への怖さ”と、再び向き合うことになることを――。
🌟感情読解ナビ
📊 「校閲スコア」
=文章の“伝わりやすさ”を、AIが数値で評価したもの
スマホのカメラが“顔の明るさ”を自動で調整するみたいに、
AI〈ルキ〉は君の文章に「今のままだと、ちょっと伝わりにくいよ」と数値で教えてくる。
でも、それが“気持ち”まで伝えてくれるとは限らない——。
🌀 「曖昧な言葉」「言いすぎな比喩」「どこか抜けた主語」
=ルールでは“ミス”だけど、本当は“らしさ”かもしれない表現たち
たとえば、「きみの笑顔は、止まった時間の温度計だ。」
……これ、正しい?わかりにくい?
でも、透にとっては“それ以外に言えなかった”気持ちが、そこにある。
校閲AIは赤を入れる。でも、読者は泣くかもしれない。
正しさと、届き方は、いつも同じじゃない。
💌 「ありがとう」って、なんのための言葉?
=“言いたいこと全部”を言えないとき、最後に出てくるひとこと
本当は「ごめんね」「助けて」「そばにいて」って言いたかった。
でも言えなかったから、代わりに「ありがとう」って言った。
そんな風に、言葉には“置きかえられた気持ち”が詰まってる。
AIにはそこまで読めないけど、人は、感じるかもしれない。
🤖 AIと人の“解釈のちがい”
=同じ文章を見ても、AIは論理、君は心で読んでいる
ルキは、「これは誤解されやすい」「三通りの意味がある」と教えてくれる。
でも透は、「それでも、この書き方がいい」と思ってる。
なぜなら、それが“自分の本当”だから。
機械が正しくても、人間が感じたことの方が、ずっと大事なときもある。
⚖️ 言葉って、伝わればそれでいい? それとも、正しくなきゃいけない?
=まだうまく書けないからこそ、言葉と向き合いたくなる気持ち
「間違った言葉で誰かを傷つけたくない」
「でも、今の自分にはこれしか書けなかった」
そんな葛藤のなかで、透は迷って、悩んで、それでもまた書こうとする。
——君も、そんなふうに言葉と向き合ったこと、あるんじゃない?
🔍 読者へのメッセージ
この物語では、“文章のミス”として校閲AIが指摘することが、
本当は“伝えたい気持ち”だったりします。
「この赤字、ホントに消すべき?」って、読んでる君自身が考えることで、
物語の中に、“自分の答え”が見えてくるはずです。
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