勇者が世界を救えないなら、私が救ってあげますわ~でしたら専属侍女の私が一肌脱ぎましょう~
田中加奈
第1話 お嬢様が世界を救うと言い出しました
「そうですわ!勇者様がいないのなら、わたくしが世界を救えばいいんですわ!」
ウチの可愛いお嬢様が急に立ち上がり、思い付きを叫びました。
幸い、この場には専属侍女の私しかいません。
「リゼお嬢様、お菓子と紅茶のおかわりはいかがですか?」
このようなことは今までに何度もあったので、私は慣れたものだ。
「もちろんいりますわ!」という元気な返事をもらい、マカロンを補充し、紅茶を淹れる。
「シャノン、聞いていました?わたくしが世界を救いますわ!」
さっきの話を繰り返したのは、お嬢様の満足した表情を心のシャッターで保存し、ティータイムの後片付けが終わったタイミングでした。
まさか、まだ覚えていたとは。
いつもなら別の思い付きを口にしているはずなのに。
「ええ、聞いていましたよ」
「どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのでしょう!ああ!もっと早く思いついていれば、この世界はとっくに平和になっていましたのに!」
すごく悔しそうな表情で、ものすごいことを口走っている。
このポジティブというか理想をすぐに口にできるところは尊敬しています。
しかし―――
「お言葉ですが、どうやって勇者より強くなるおつもりですか?まだダンジョンに入れる年齢ではありませんよ?」
リゼお嬢様は今年で10歳になります。
しかし、単独でダンジョンに入れる許可が下りるのは13歳からです。
「もちろん、シャノンと一緒に入りますわよ?」
まさかその制度を知っていたとは驚きました。
「学園で教わりましたか……。しかし、同伴者のランクがシルバー以上でないといけないことを忘れています」
私の言葉を聞いたリゼお嬢様がポカンとした表情になります。可愛いですね。
「え?シャノンなら問題ないと思っていましたわ」
今度は私がポカンとする番でした。
「その……、信頼してくださるのは嬉しいのですが……、私のランクはビギナーです」
「……じゃあ、シャノンと一緒にダンジョンに入れないのですか?」
雨に濡れた子犬のような表情でこちらを見るのは卑怯だと思います。
私の弱点を熟知してらっしゃる。
「……わかりました。少しの間お時間をください」
「ありがとう!シャノン、大好きですわ!」
私に抱き着くリゼお嬢様の頭を撫でながら、今後のことを考える。
※
「というわけで、私のランクをシルバーにしてください」
目の前に座っている人物に、リゼお嬢様との会話を要約して伝えると、大きなため息が聞こえました。
「え?できないんですか?可愛い可愛いリゼお嬢様のお願いですよ?この日のための権力でしょう?」
捲し立てると、今度は頭を抱えてしまいました。
「……いや、できるよ?できるけどさあ。……いいのかい?」
「構いません、やって下さい」
「はあ……、分かったよ。明日の同じ時間に来なさい」
「わかりました。ありがとうございます」
一礼し退室しようとすると、後ろから声を掛けられます。
「王にお願いできるのは、家族以外だと君たちぐらいだよ」
「貴重な経験ができてよかったではないですか。それでは、また明日に伺います」
大きなため息を背にしながら、今度こそ退室します。
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