第2話 入学、幼年学校
あれから一年が経った。今日は四月の一日、これから幼年学校の入学式だ。幼年学校というのはこの国で八歳になる年から一五歳になるまで通うことになる学校であり全国民が必ず通る道であり初等部の五年間と中等部の三年間に分かれている。
「麗、お母さんと宮野さんは保護者席までしかいけないから星のことよろしく頼んだわよ」
そう姉に話しかけたのは俺たちの母であり大黒柱の世継蘭だ。この世界では当たり前な人工授精によって出産したため父はいない。宮野さんというのは家のお手伝いをしてくれる女性で、主に母が仕事に行って子供の面倒を見れない昼頃に面倒を見てくれる存在である。
家を出た俺たちは宮野さんの運転で学校まで向かうと校門前で下車する。そうすると案の定周りがざわざわし始める。
「校門前に停めたってことは......」
「ええ、男の子ね、間違いないわ」
「というか、さっきの二人もすごいとは思ったけど......」
「今年は荒れるわね、娘に気合い入れなさいって念押ししないとっ!」
何を言っているは分からないが車から降りただけでこの反応。やはり男というのはそれだけ珍しいのだろう、それにハッキリ言って俺は超絶イケメンだからな。予想はしていたが前世では有り得なかったことだろう。ふっふっふ、なんというかいい気分だと思いニヤニヤしてしまう。
「星、顔凄いことになってるけどどうしたの? 変だよ」
これはマズい、麗ににやけた顔がバレていたらしい。慌ててスッと表情を戻し告げる。
「え? そうかな、でも初めてこんなに人のいるところに来たからさちょっとワクワクしてるみたい」
「そっか、まあそれは確かに私もそうかも」
そんな会話をしながら校舎に入るとクラス分けがされた紙が壁のあちこちに張ってあった。しかし、男子が所属するクラスというのはあらかじめ通知されているため俺たちはそれを見ることなく教室の前まで向かう。
「じゃあ、二人ともお母さんたちは体育館に先に向かっているから頑張りなさいよ」
「麗ちゃんも星君もいっぱい写真撮りますからね!」
母さんと宮野さんにそう言われ教室前で別れた俺たちはドアの前で顔を見合わせる。
「じゃあ星、教室入るけど大丈夫?」
俺はこれからの学生生活を楽しみにしつつ理想のためにも動かなくてはいけないそう思いながら返事を返す。
「うん、大丈夫。楽しみだね!」
――――ガラガラガラッ――――ザワザワ――――
ドアを開けると、待っていたのは教室中からの視線だった。俺たち以外はもう席についているようで教室の前に大きく主張する座席表を見たであろうほかの生徒たちは、残っているのが同じ苗字の男女だと知っていたようだ。殆どの視線は俺に集まっていたものの双子だと確信したからか、はたまたその美貌からか麗も次第に注目されるようになった。
「空いてる席の後ろが星で前が私みたい」
そんな視線を気にも留めず麗はそう言って歩きはじめる。見ると教室の奥隅が俺の席らしい。麗に着いていき席に座ると隣の子に話しかけられた。こちらから話しかけるつもりだったが、好都合だ。
「良かった、初日から来ないのかと思ってたよ! 僕は立花冬樹、よろしくね!」
隣に座る茶髪の男の子は冬樹という名前らしい。少し気弱そうな見た目をしているが、こちらが男ということもあってか怯えた様子はない。そしてその隣には今年入学するもう一人の男子も座っている。彼はまだ朝だからか眠そうにしていてどこか掴めない雰囲気があるが、所詮は初等部一年生だ。仲良くなれないなんてことはないだろう。
「おう! よろしくな冬樹、俺は世継星。前に座ってるのは双子の姉の麗、遅くはなったけど来ないって程の時間じゃないだろー?」
「うん、でも男の子は初日から顔出さないっていう家もあるみたいだし……ちょっと不安だったよ」
そうか、男子は徐々に学校に来なくなるというのは事前に知っていたがまさか初日から来ないなんて猛者もいるとは。そうなると俺の計画は破綻していた、少なくとも幼馴染ガチャには外れなかったと思っておこう。
「まじかー初日から来ない奴もいるとはなぁ、とりあえずこの学校は俺含め皆来てるし安心だな!」
うんうんと何故か周りの女子たちが冬樹よりも頷いていたが、男性と出会う機会が殆どないこの世界では、必ず一緒にいられる少ない期間なのだと思うとそんなものかと認識を改める。そうしていると教室前方のドアがガラガラと開き担任と思わしき女性が入ってきた。
「みんな、おはよう! このクラスの担任になりました清水かおりです。早速だけど今日はこの後自己紹介をしたらすぐ体育館に向かって入学式だからね!」
小さな子どもに向かってゆっくりとハキハキ喋るその姿は手慣れたものであった。
ここ、東京第一幼年学校の三つあるクラスのうち唯一男子生徒が通うクラスだ。ベテランの教師が任されるというのも納得である。教室の端から自己紹介が始まると残りの名前を知らない男子の番になった。
「京極透です。音楽を聴くのが好きです、よろしく。」
――――パチパチパチパチ――――
間違いなく今までの中で一番の拍手が起こる。うん、男子なのだからそういうものなんだろう先生の目も心なしかより優しく見える。
「立花冬樹ですっ……えーと、趣味は料理でお母さんの手伝いをよっくして『あっ』よくしてます。よろしくお願いします」
うん、噛みはしているがしっかりとした挨拶だ。思ったとおりである。理想を思い描いてから計画を立てていたがその第一段階はクリアできそうだなと感じる。
目標として掲げた世界初の男性アイドルグループ結成。そして芸能界に乗り込みドラマや映画などに出演し、世の女性たちに幸福を届けること。しかし、俺一人ではそれを成すことは難しいと考えた。ならば仲間集めをすればいいじゃないと俺は幼年学校に目を付けたのだ。
始まりはある討論番組だった。その回は男性がいかにして女性を恐怖するようになるのかを検討し改善するべきだと討論していた。俺はそこでの歪みに注目した。いわくこの世界の男性は俺も読んだ絵本だったりを通して女性に対する価値観を作り上げながらも当初はそれが固まりきることはないらしい。
しかし、初めて家族以外の女性に出会う幼年学校にて向けられる女性からの獲物を見つけた猛獣のような目線。それから、ボディタッチなどを通じ絵本の通りだったのだと体験をもって理解し恐怖するようになる。
そして、成長するにつれてより肉体が性別を意識させる。聞こえてくる会話なども生々しくなっていき遂には女性を嫌悪し不登校になる男子も少なくないという。ならば端から通わせなければいいとする意見もあるが、それでは女性が男性に出会う機会はほぼなくなってしまうという意見から実現することはないらしい。
学校教育をなくすことは出来ないがそれが女性に対する悪感情の主な原因というのだから確かに歪んでいると俺も思ったものだ。
しかし、俺はそこで閃いたわけだ。同じ幼年学校に通う男子たちを俺がサポートし、女子と積極的に遊びながら男女の関係に慣れさせてしまう。そうしたら俺と同じく女性に怯えない、嫌悪感を抱かない仲間を作れるのではないか?
そう思ったわけである。そして理想のために一肌脱いでもらうように徐々に誘導していくのだ。くっくっく。
「次、星の番だけどなに下向いてニヤニヤしてんの?」
おっと、計画の第一段階について考え込んでいたらもうそんなタイミングだったらしい。これは良くない、早速支障をきたすところだった。順番も最後なわけだし時間を押すわけにもいかない。
「皆よろしく! 俺の名前は世継星、この学校で友達百人つくることが目標ですっ!!」
そう言って周りを見渡すと先生含め、隣の冬樹や女子たちもポカーンとしたアホヅラを晒していた。だが、唯一「ふふっ」と笑った透を俺は見逃さなかった。そして、目の前では麗が呆れた顔でこちらを見つめていた。
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