第14話

『異世界より苦情届! “転生者クレーム”緊急対応マニュアル!』



「……ねぇナノコ、今朝届いたこのファイル、なんか“圧”強くない?」


『件名:第六界行政機構・西部群村連合議会より苦情申立書。

 副題:“転生者による神格化問題と地域被害について”デス』

「副題がもうだいぶアウトなんだけど!?」


神楽坂メグは、転送申請書でも祝福スキル一覧でもない、“完全なる異世界からの苦情文書”を前に凍りついていた。


『概要抜粋:

・転生者トオル氏、“水の魔神”を自称し、村の水源スキルでインフラ破壊

・“この世界はオレが創った”と語り、宗教的混乱を招く

・現地通貨価値に異常変動あり(発言による未来予言が原因)

・対応策:送出機関による誠意ある再教育と処理を求む』


「誠意って、具体的に何!? ごめんなさいチョコとかで済むわけ!?」


ナノコが冷静に補足。

『なおこの魂、テンプレ勇者プランで転生。

推薦者:クラリーチェ様』


「やっぱりかぁああああああッ!!」


そのとき、課の端末がピコンと鳴る。

『祝福課・クラリーチェです♪

トオルくん、村の人と仲良くできてるみたいで安心しました~!

次は“火の乙女編”に続く予定です!』


「シリーズ化してるううううう!?」

『※なお現地では“水魔神シリーズ化構想”により異教紛争の火種となりつつアリ』


「想像以上にやらかしてるうううううッ!?」


クロウが無言でファイルを読み込みながら、静かに言う。

「……庁として、公式対応に入る。

神格化、文化破壊、経済破綻――これは、れっきとした“他界クレーム”だ」

「なんか響きが強すぎて現代の労基みたいになってるけど!?」

『対象魂照合完了――氏名:田村 融(たむら・とおる)。享年28。

生前職業:水道設備メンテナンス業。

転生時スキル希望:“水の操作”“村スタート”

“モテる程度のイケメン”』


「この最後の希望、曖昧なのにめっちゃ欲望が詰まってるな……!」


ナノコが経緯を淡々と読み上げる。

『テンプレルートで祝福付与:“村に来た謎の救世主”型。

備考欄に“なるべく最初から崇められたい”と明記アリ』

「庁が通すなそんなの!しかもクラリーチェ印!」


クロウがファイルをめくりながらつぶやく。

「……“水を自在に出せる人間”が来た。

そりゃ現地では“神”扱いになるわな。井戸文化だろうし」

「ていうか水道設備の知識持ってるから、妙にリアルに水源管理始めてるんだけど!?」


ナノコ補足:

『転生後発言例:“この世界、どうせ俺がつくったんだろ?

前の世界の知識で文明開化させてやるよ”――』


「中二と万能感が悪魔合体してるじゃん!?」


しかも影響は水インフラだけにとどまらなかった。

『語った“未来知識”により市場で通貨の信頼が揺らぎ、一部地方で“水魔神通貨(勝手に作成)”の流通が開始されていマス』


「なんで経済まで乱してんのよぉぉぉ!」



クラリーチェからの追撃メッセージが届く。

『“水の魔神トオル”シリーズ、人気爆発中です♪

次は“火の乙女アカネ”との出会いイベントかな?』

「小説投稿サイトじゃないの!ここ異世界なんですけど!?」


クロウが締める。


「……これは放置できん。

魂本人の再呼び出し申請を発行。庁内“魂追跡用ワーム”起動しろ」

『了解。対象魂:チート拡張型祝福ルート/過剰影響指数・赤判定――緊急対話に移行シマス』


メグがぐったりとつぶやく。

「転生者の後始末って、なんでこんな現代的なんだろうね……?」



♦︎



対話空間に転送された魂・トオルは、見覚えのある“自称・神”の姿で現れた。

「よう。また呼び出されるとはな。

まあ、オレは今や“水の魔神”だからな? 下々の報告も仕方ない」


「“クレーム”って言うんだよそれ!!」




メグは深く息を吐いて、テーブル越しにまっすぐ問いかけた。

「……トオルさん、聞かせてください。

転生して“崇められたかった”って、本当に、それがやりたかったことなんですか?」


しばらくの沈黙のあと。

トオルは、肩をすくめて言った。

「正直、たぶん……“必要とされたかった”んだと思う。

生前は誰にでも代わりがきく仕事だった。

頑張っても怒られて、壊れてるのは機械だけなのに……俺のせいになる」


「だから……“自分じゃないとダメな場所”が、欲しかった」


ナノコが記録処理しながら言う。

『魂識別構造:承認飢餓型祝福依存傾向。

なお、この構造は“誤作動”ではなく、本人の願いに基づいていマス』


クロウが静かに言った。

「……だからこそ、世界に“壊れるほどの影響”を与える前に、止めなきゃならん。

転生は再スタートであって、逃避でも支配でもない」


「じゃあ、どうすれば……」

トオルが問うと、メグは迷わず答えた。


「“神様じゃなくて、ちゃんと人として頼られる”道を、今度こそ探してください。

それが、“庁としての誠意”です」



『魂再送準備完了。

転送先変更:同一世界・別村ルート/役職“水管理補佐官(見習い)”』

「それただの水道担当じゃねぇか!?」


「でも、今度はちゃんと“名前で呼ばれる仕事”ですよ」


転送の光の中で、トオルがふっと笑った。

「……じゃあ今度こそ、“水の魔神”じゃなくて、“田村トオル”として、生きてみるわ」





次回予告:

第15話:『転生庁、バグる!? “中二病魂”

           緊急メンテナンス!』

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