知らない部屋
目を覚ました睦月は、見知らぬベッドに寝かされているのに気づいた。
慌てて身を起こし、辺りを見回す。部屋の大きさは八畳ほどで、窓がひとつもなく、家具は少ない。簡素な机と椅子。銀色のスチールラックに、昔のマンガと古い携帯ゲーム。
壁には淡いピンク色の壁紙、そなえつけのクローゼット。袖のほつれた女物のコートが、壁のフックに掛かっている。机の上には何冊かの本が置いてあった。知らない部屋のはずなのに、どことなく懐かしい。
その懐かしさがなんなのか考え、ふと思い至る。
匂いだ。まったく知らない部屋なのに、どこか覚えのある匂いがするのだ。
はて、それがなんなのかと悩んでいると、ドアが開いた。
「ムーちゃん……大丈夫? 身体、痛くない?」
顔を出したのは華音だった。
「先輩? そうか、ここ、先輩の……」
懐かしいと感じた匂い。それは昔、一緒に過ごした彼女の部屋の匂いだった。
「俺、なんでこんな所に寝てるんですかね……?」
首を捻ると、皮膚が引き攣れるみたいな妙な違和感を感じる。慌てて手をやると、首筋に幾重にも包帯が巻いてあった。
「……えっとね、ムーちゃん、昨日の夜に階段から落ちたのよ。ドゥンケル城の、見張り搭の階段からね」
「見張り搭の階段……?」
そういえば、昇った気がしないでもない。長い螺旋階段と、窓から覗く病的に細い三日月を
華音が歩み寄りながら言った。
「ここはストレンジ・ワールドの寮よ。……っていっても、ドゥンケル城の真下なんだけどね」
ベッド脇の目覚まし時計は、九時を指している。まさか、夜の九時ではあるまいが……知らぬ間に一晩たってしまったらしい。
慌てて身を起こそうとすると、華音がそっと押しとどめた。
「ムーちゃん、今日はお休みしてて。ご両親には、昨晩のうちに連絡してあるから。……それとこれ、朝ごはん。よかったら食べて」
そして、枕元に紙包みを置く。ほのかに香ばしい香りを纏っている。
「本当はね、今日は一日側にいてあげたいんだけど、忙しくてダメなの。あたしの部屋、自由に使っていいから……お昼、遅くなっちゃうと思うけど、一緒に食べようね!」
そう言って手を振ると、華音は部屋を出て行った。
残された睦月は、枕元の紙包みを手に取ってみる。ほんのりと暖かい。
開いてみると、ふっくらと焼き上げたパンにレタスと餃子が挟んであり、その上から刻み玉葱の入ったマヨネーズと、甘酢らしきタレとラー油が掛かっている。齧ると、サクサクカリカリで甘辛い。
これが、
「……意外とイケるな」
感心しつつ、平らげる。食べ終わると、紙をクズ籠に投げ入れて立ち上がる。
眠くはないが、妙な気だるさが気になった。
なんだか、身体がギクシャクする。首を回してみるが、痛みはない。ただ、皮膚が変な感じに突っ張っている。
部屋を自由に使って良いとは言われたものの、女性の部屋を物色する趣味はない。とは言え、じっとしてるのも暇で仕方ない。
「……そういえば、部屋の外はどうなってるんだろう? ドゥンケル城の地下だって言ってたけど……」
部屋から出るなとは言われていないし、そもそもこの部屋には水周りが一切ない。喉を潤したり、用を足したりするには、結局外に出るしかないのだ。
扉を開けると、薄暗い廊下が続いている。床は絨毯が敷き詰められて、壁は古風な石造りだ。
両側にずらりと扉と古風なランプを模した電灯が並んでいて、突き当たりに扉があった。逆側は延々と続いていて、そちらには電灯が点いてないため、暗い闇が広がっている。
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