名を呼ぶ異世界地主 〜地霊と灰の契約譚〜

せんみつ

プロローグ

「ねえ……あなたは、“名前”を呼ばれた記憶、ありますか?」


呼ばれることで、私たちは自分を思い出す。

でも、名前を呼ばれなくなったら……?

誰にも思い出されなくなったら――その存在は、どうなってしまうのでしょうか。


この世界では、土地にも、風にも、祈りにも、“名”があった。

でも、今はもう多くが忘れ去られ、声も届かず、灰になった。


そんな世界に現れたのが、カイン・ユーストという男でした。


彼は、契約を結ぶために名を与えるのではなく、

“名を問い直す”ことで、土地の声を聴こうとする――まっすぐな地主でした。


はじめは、彼を疑っていました。

でも、彼の声が、名を呼び戻し、地を再び芽吹かせたとき――私は、確かに見たんです。


失われた地が、名を受け取って、息を吹き返す瞬間を。


私は、かつて灰に呑まれた両親の研究を信じています。

そして今、私は彼と共に、忘れられた名を探し続けているのです。


この世界にまだ、名を呼ぶ者がいる限り。

名は、きっと、生きている。


名とは、縛るものじゃない。

願いを受け取り、未来へつなぐための“かたち”。


だから私は歩く。

名を守るために――


「名を呼ぶことは、生きてるって証明なんです。

だから私は……忘れたくないんです。誰の名も。」


(カズハ・アオイ)


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