第9話 氷獄将軍のバイト面接

 リンには働けと言ったが、我が4柱が1人。氷獄将軍のルイも無職だ。


 彼女は小柄なアイスエルフ。

 青みがかった銀髪ショートヘアに碧眼。


 日本人から見れば、天使のような美しさと言える。


 そんなルイが興奮気味に話しかけてきた。


 「ねぇ、ジルくん。これすごいよ。お風呂でおじさんの身体を洗ってあげるだけで、高収入確定だって。日本ってすごい。ボク、感動だよ」


 って、くん呼びかよ。

 どいつも敬意がたりねー。


 ……高収入ねぇ。


 確かに、俺が元居た世界では、身体を洗うのは使用人や侍女の役目で、そんなに見返りのある仕事ではない。


 さすが現代日本。

 そんな仕事があるとは。


 面接に向かうルイを見送ったあと、エイ先輩に相談した。すると、先輩は珍しく緊張した様子で言った。


 「それ、絶対風俗だよ。ルイちゃんってあの可愛い妹さんでしょ。俺、絶対に指名するから。店おしえて」


 さすが、俺が見込んだ先輩だ。

 俺が頼むまでもなく、ルイの救出に向かってくれるらしい。


 では、俺も行くとするか。

 大切な部下を守るのが、俺の役目だ。


 面接会場という雑居ビルに入る。


 (ルイは大衆浴場と行っていたが、清潔感のカケラもない建物だな)


 すると、か細い女性の声が聞こえてきた。

 ルイだ。泣きそうな声をしている。



 「ご主人様、助けて……堪忍して……。ダメぇ、ボクもう」


 明らかに陵辱されている声だ。


 「いひひ、いひひ。いいっ。もっと悲痛な声で、いひひ」


 中年の男の声が続く。

 この凡俗が。


 今頃はルイは……全裸で辱められているに違いない。


 俺の部下に手を出すとは良い度胸だ。


 「……殺してやる」



 魔法行使には大量のマナを消費するが、やむを得ない。


 俺は口を開け、経脈から魔力を循環させる。

 この感覚。久しぶりだ。


 右手に魔力が溢れだす。



 「アブソリュート•コキュートス」


 詠唱は完成した。

 手のひらに絶対零度の氷塊が集約されていく。



 俺はドアを開けて、左手を男にむけ……。


 「しねぇぇぇ!!」と叫んだ。


 ……って、ん?


 そこにいたのは、エプロン姿のルイだった。ケチャップを持ってフリフリしている。


 そして、男は大興奮で踊っていた。



 ルイは俺に気づいた。


 「あっ。ジルくんっ。この人、めっちゃ良い人でね。ボクが処女っていったら、自分を大切にしろって。健全なメイドカフェのバイトを紹介してくれることになったの!!」


 男も俺に気づいた。


 「こ、このルイたん。すごい逸材ですよ!! この冷たい視線。たまらないです。メイドカフェでバイトしつつ、いずれはアイドルを目指して……」


 2人の呑気な顔を見ていたら、だんだんムカついてきた。


 ……。

 こっちは死ぬほど心配したのに。


 こいつら。

 2人ともしねっ。


 俺は魔力のベクトルを操作し、ターゲットを変更する。そして、無慈悲に射出した。




 「ひゃんっ」


 「ぐおおおっ」


 ふふ。

 阿鼻叫喚だ。


 「ジルくんっ。なんかパンツの中にいきなり氷の粒が発生したんだけどっ!!」


 「ひょおお。パンツの中が冷たいっすー!!」



 俺は2人の下着の中を氷結させてやったのだ。

 転げ回る2人に背を向け、家へ向かう。


 「少しは反省しろ」


 

 ちなみに、結局、ルイはメイドさんして働くことになった。


 そのユニークメニューは、お客さんのパンツの中に氷礫を流し入れる「アブソリュート•ルイ 5,000円」だ。


 物好きが多く、かなりオーダーが入っているらしい。

 

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