その翡翠き彷徨い【第9話 星が還る時】
七海ポルカ
第1話
朝陽が昇る前に起き出して、礼拝堂内に置かれた蝋燭の様子を確認するのは彼の仕事だった。夜中灯していた蝋燭の中で、無くなり消えているものを新しいものに替えておくのである。
それが終わると修道院に繋がれている馬の散歩がてら、近くの教会へと祭壇に捧げる花をもらいに行くのだ。
教会の広い庭にはいつも通りすでに修道女が二人いて、朝の食事に使う為の野菜を取っていた。
すでに顔なじみとなった少年の姿を見ると、彼女達は快く好きな花を摘むように、と花園の方へ通してくれる。
今日摘んだのは白百合だった。
風に当たらぬように丁寧に紙に包み、馬の背に結びつける。
その帰り道――少年は馬の背に跨がりレイヴレネス湖の脇の林道をゆっくりと駆らしながら走って帰った。
丁度その頃東から昇った朝日が青い湖面をキラキラと輝かせて、涼しい風が木々の葉をざわめかせるのである。
水の豊かなこの地はいつも涼しげな風が吹いていた。
この景色と風を感じながら礼拝堂へ帰るのが少年のお気に入りだった。
――ふと、遠くから鐘の音が聴こえて来た。
湖面に浮かんでいた白い鳥達が一斉に北の空へと羽撃いて行く。
王都に鐘の音を響かせることが出来るのは、サンゴール王都を四方から守るように立てられた四つの国教教会の鐘だけである。
一日ずつ役目を替え朝の礼拝の鐘を鳴らすのだ。
その鐘の音はいつもこのラキアまで届いて来るのだが……しかし今日の音はいつもと異なり、幾重にも重なりずっと響き続けている。
翡翠の瞳を北の方へと向けてから、少年は馬の首を撫でて再び馬を駆らし始めた。
メリクが王城を離れて、二年の時が過ぎていた。
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