アニメから繋がる友情

えいじ

朝の電車とキーホルダー

桜が舞う春の朝。中学2年生の川崎結菜(かわさきゆいな)は、通学途中の駅で急いでいた。人混みの中、ふとバッグにつけていたアニメのキーホルダーが落ちたことに気づかない。


「すみません、これ落としましたよ!」


澄んだ声が聞こえ、振り向くと、息を切らせた女性が手を伸ばしていた。


「あっ、ありがとうございます!」


結菜が受け取ると、その女性はニコッと笑った。


「これ、アニメのキャラですよね? 私も大好きなんです!」


驚いた結菜は目を輝かせた。


「本当ですか!? すごい、私の周りにはあんまり知ってる人いなくて…!」


「わかる! 私も職場では話せる人がいなくて寂しかったんです」


その女性は田中真琴(たなかまこと)、24歳の会社員だった。通勤途中で偶然キーホルダーを見つけ、思わず拾って走ったのだという。


電車が来ると、二人は並んで乗り、すぐに共通の好きなアニメの話で盛り上がった。好きなキャラや名シーンの話をしていると、駅に着くのがあっという間だった。


「また会えるかな?」と結菜が少し寂しそうに言うと、真琴がスマホを取り出した。


「よかったら、連絡先交換しない? 毎朝この時間の電車に乗ってるから、また話せるかも!」


結菜は嬉しそうにスマホを出し、連絡先を交換した。


それからというもの、二人は朝の電車で会うたびにアニメの話をするようになった。新しい話題があるとメッセージを送り合い、たまにカフェでアニメの話をすることも。年齢は違っても、共通の趣味が二人を繋いでいた。


そんなある日、真琴が少し遠慮がちに聞いた。


「今度、一緒にアニメのイベント行かない?」


結菜の顔がぱっと明るくなった。


「行きたいです! こんなにアニメの話ができる人と一緒に行けるなんて最高!」


しかし、結菜の財布事情を考えると、イベントのチケット代やグッズ代はちょっと厳しい。真琴はそれを察して、


「今回は私が出してあげるよ。せっかくだし、一緒に楽しみたいし!」


「えっ、そんなの悪いです…!」


結菜は遠慮したが、真琴は微笑んで首を振った。


「いいの。結菜ちゃん、妹みたいで可愛いし、私も一緒に行きたいんだから」


それでも少し申し訳なさそうな真琴に、結菜は思わず笑った。


「じゃあ…イベントでめいっぱい楽しんで、お姉ちゃんに恩返しします!」


「お姉ちゃん…! それ、なんか嬉しいな」


そう言って二人は笑い合い、イベント当日を楽しみにするのだった。


イベント当日。朝早くからワクワクしながら駅で待ち合わせをした結菜と真琴。


「結菜ちゃん、おはよう!」

「真琴さん! 今日はよろしくお願いします!」


結菜は少し緊張しつつも、大好きなアニメのイベントに行けることに胸を躍らせていた。


ファンフェスの会場は、すでに多くのファンで賑わっていた。大きなポスターやキャラクターの等身大パネルが並び、会場に入るだけで二人のテンションは最高潮に。


「すごい…! 本当にアニメの世界みたい!」

「ね! あ、見て! あそこのブース、限定グッズがあるみたい!」


さっそく限定グッズのコーナーへ向かう二人。結菜はグッズを眺めながら目を輝かせていたが、値段を見るとちょっと尻込みしてしまう。


「うわ…やっぱり結構高いなぁ…」


そんな様子を見ていた真琴は、さりげなく結菜が欲しそうにしていたキーホルダーを2つ手に取り、レジへ向かった。


「はい、これ。お揃いにしよ?」


「えっ!? だ、ダメですよ、また買ってもらうなんて…!」


「いいのいいの! 私、結菜ちゃんが喜ぶ顔を見るのが好きだから!」


真琴は少し照れくさそうに笑いながら、キーホルダーを差し出した。


結菜は受け取るかどうか迷ったが、真琴の優しさが伝わってきて、素直に受け取ることにした。


「ありがとうございます…! じゃあ、これ、一生大事にします!」


「大げさだなぁ。でも嬉しい!」


その後も二人はイベントを満喫し、一緒に写真を撮ったり、ステージイベントを楽しんだりした。


帰りの電車の中、結菜はふと口を開いた。


「私、お姉ちゃんがずっと欲しかったんです。だから…真琴さんと出会えて、本当に嬉しい」


「えっ…」


不意打ちのような言葉に真琴は驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。


「じゃあ、これからもお姉ちゃんって呼んでくれる?」


「はい! これからもよろしくお願いします、お姉ちゃん!」


こうして、14歳の少女と24歳の社会人は、年の差を超えた特別な友情を育んでいくのだった。

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