第5幕-懐かしい香り-
「次はお祖母様のお葬式のシーンですが、見ますか?」
「うん、見る。」
――――――――――
見慣れた祖父母の家。
『キャハハ』
ユイナは笑っていた。お葬式も、3歳の子どもには"人がたくさんいる場所"くらいの感覚だった。
『おいユイナ、こっちきてみろ!』
いとこが何かを企んでいる。
年の近い彼は良い遊び相手だった。
昔は当たり前だった、自宅で執り行われる葬儀。お葬式なんだけど、76歳という年齢もあって、どこかその空気は和やかだった。
ユイナには6人のいとこがいて、ユイナは最年少。
――――――――――
「にぎやかですね」
「うん。一人っ子だったから、こういう場で会えるのが嬉しかったな。会えるのもお正月とか法事くらいだったし。」
――――――――――
お葬式は雨だった。むわっとした空気の中、冷たい風がときおり吹き込む。
祖父母の広い家には、親族や近所の人たちが次々と出入りしていた。
母に「この服イヤー」と訴えるユイナ。
着替えに連れていかれたのは「衣装部屋」と呼んでいた場所。
建て付けの悪い襖を母が慣れた手つきでこじ開ける。畳に赤い絨毯、洋服ダンス、ほこりっぽくてカビ臭い独特の空気。
ひんやりとしたその部屋の感触が、画面越しに伝わってくる。
――――――――――
「すごい…」
「何がですか?」
キョトンとしたソウマが問う。
「その部屋の空気…匂いや絨毯の手触りまで思い出したよ」
目を閉じて、遠い記憶にある部屋を思い浮かべた。
母や祖父に叱られた時なんかに、こっそり忍び込んだりした。
ちょっと怖かったけど、落ち着く部屋でもあった。
ふむ…とソウマが続ける。
「嗅覚は記憶と強く結びついてますからね」
祖父母の家は今は叔父夫婦が住んでいて、あの部屋はリフォームされてもうない。沢山あった服や荷物はどうなったんだろう…。
考えると何となく抜け出せなくなりそうで、気持ちを切り替えた。
「ふぅ、3歳まででこれって、情報量が多いよ」
「古い記憶ほど、くっきり映るようにしてあるんです。さ、ポップコーン、まだ残ってます?」
「残ってる。てかあんま食欲ないし…
…あ、3歳といえば、あのときたしか…」
「もちろん観れます。次はそれにしましょう」
「えっ、待って待って。
今、私の考え読んだ…?」
「はい、思考に直接アクセスさせていただきました。大丈夫です、個人情報は守られています。」
「えぇ…?なにそれ……」
ちょっとゾッとしたけど、少しだけソウマが親しみやすく思えたので、まぁいいや。
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