第33話 社交界デビュー(2)
フリアンは驚いた顔で私を見る。
二番目の姫と呼ばれ、控えめにしていた私しか知らないフリアン。
――私がこのままなにもせずにいたら、死ぬかもしれないなんて、誰も知らない。
知っているのは私だけ。
だから、生存するための可能性が、少しでもあるのなら、全力で体当たりするしかない。
「レジェス様。よろしくお願いします!」
「ああ」
気合いを入れた私に、レジェスはなにを思ったのか。頬をつねった。
「れひぇすさま(レジェス様)!?」
「ルナリア。笑え。笑って、今を楽しめ」
私のつねった頬から指を離して、優しく頬をなでた。
「戦うのではなく、楽しむんですか……?」
「そうだ」
今を楽しんでいいのなら、私はレジェスと楽しくダンスを踊りたい。
「よし。緊張してないな?」
「はい」
私の前に差し出された手をとる。
社交界デビューの初めてのダンスをレジェスと踊れるのが嬉しかった。
――本物のお姫様みたい。
音楽隊は私とレジェスを見て微笑み、明るいワルツを奏でた。
「まあ。なんて可愛らしい」
「お人形さんのようね」
「パーティーで、レジェス様が楽しそうにされているのを久しぶりに見ましたわ」
身長が足りなくて、さりげなく背伸びしていると、レジェスが私の体を支え、転ばぬよう上手にリードする。
片手で抱き上げて、くるくる回る。
わぁっと歓声が上がり、大広間が明るくなった。
「レジェス様!」
「ルナリア! しっかり手を握ってないと落ちるぞ!」
無邪気なレジェスに、国王陛下も笑っている。
けれど、私たちがダンスを踊るのを見て、面白くない顔をしていたのはレジェスの兄たちで、こちらに向かって文句を言っていた。
「ふん。子供になにができる」
「小国のオルテンシアなど、我々の道具だ」
その言葉で確信した。
――やっぱり、オルテンシア王国を利用するつもりでいるんだわ!
レジェスが危惧していたように、マーレア諸島の商品を一気に値上げし、オルテンシア王国から、お金を搾り取れるだけ搾り取る算段でいる。
そして、自分たちの領地を潤し、王位継承戦を優位に進める。
――そんなことさせない!
私に聞こえるように、レジェスの兄たちは大きな声で話す。
「よりにもよって、オルテンシア王国の二番目の姫を選ぶとはな」
「美しく賢いのは一番目の姫だと聞いている。レジェスは連れてくる相手を間違えたのではないか?」
――また二番目。
呪いみたいについてまわる『二番目の姫』の肩書き。
レジェスから手を強く握りしめられて、ハッと我に返った。
「レジェス様……」
「ルナリア。よそ見をすると転ぶぞ」
レジェスの私を支える力が心強い。
「はい!」
それから、私とレジェスはちゃんとしたワルツを踊って終わった。
二曲目が始まった。
次のダンスは別の人と踊るのがマナーである。
私を誘う人はいないと思い、戻ろうとした時――
「ルナリア王女。踊っていただけませんか?」
私に手を差し出したのは、黒髪に褐色の肌をしたエキゾチックな男性で、その顔に見覚えがあった。
――昨日、庭園で会ったマーレア諸島クア族のルオン!
「ルナリア。踊ってこい」
レジェスが私を応援するように、背中を優しく押した。
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