第28話 ダンジョン・コア
ダンジョン・コアから魔素を得て、傷を瞬時に再生する。その特権を持っているのはダンジョン・ボスだけのはずだ。
「〝渡り〟がボス? そんな事あるのか……?」
あり得ない。
このダンジョンのボスである
そして、ダンジョン・ボスとはコアを守るために存在している。コアのそばを離れるなんて、それもあり得ない。
ヤツは他のダンジョンで生まれたはずだ。ニュースになった際の画像、あれはここではないダンジョンで撮られた。別のダンジョンから渡ってこのウラサキ・ダンジョンに来たはず。
姿かたちが似てるだけの別種? だが
だから目の前の黒騎士が〝渡り〟であるはずなのに。
「ハ、ハハハハ、ハハハ!」
高い笑い声が、王座の間にこだまする。
「ヤツを捕らえろ!! 殺すなよ!!」
「何を言って……?」
笑い声の主は本田だった。後方、アリーよりさらに後ろ。戦闘中は気配を消していた男が、唾を飛ばしながら喚く。
「いいか、絶対に捕らえろよ!!」
「無理です。想定より強すぎました。捕獲は出来ません」
冷静な声で拒否する霧島。そう、この黒騎士を捕まえるなんて不可能だ。一撃浴びせるだけでも一苦労だったのに捕らえるなんてできっこない。そもそも、そんなことをする理由が分からない。
「ヤツこそが特殊個体だ! 捕らえればワシの地位は鰻登り! 立花の役員への扉が開けるんだ!」
特殊個体? 地位? 何を言ってるのかさっぱり分からない。
「さあ、動け! 金ならいくらでも払ってやる!!」
「いい加減に――」
しろ、と言いかけたところで、黒騎士が俺に向かって突っ込んできた。
今まで防御役に徹していた霧島が動かない。
やむを得ず自分の刀で頭上からの一撃を逸らす。
「動け!!」
俺の喝に反応した霧島が大剣を黒騎士に向かって振り下ろした。
だが、その踏み込みは甘く、剣速も先ほどより遅い。
難なく防がれ、切り返しの一撃は刀で食い止めた。
「……くっ」
霧島に変わって黒騎士の連撃をさばいていく。
時折霧島と黒岩も攻撃を入れるが、やはり動きに精彩がない。
動きに迷いがある。
まさか、本田に「捕らえろ」と言われたからか?
こいつらも、何かを知ってるのか?
俺は刀で受けるのを止め、横薙ぎの一撃を低身長を生かしてかいくぐった。
「おらっ!」
地を這うような姿勢のまま、右足を切り飛ばす。
そして、体を起こす勢いをつけながらくるりと身を半回転させ、魔素を纏わせた足裏を胸部に叩き込んだ。
「おい! 倒すなと言ってるだろう!?」
吹き飛ぶ黒騎士。
絶好の追撃チャンス。
だが、<
「くそっ」
苛立ちに思わず悪態をついてしまう。
黒騎士の右足が回復していく。せっかく一太刀入れたのに、無に帰そうとしていた。
本当にコイツがボスなのか?
俺は確かめるべく、目を強化して魔素の流れを見た。
右足を修復させている魔素。
赤黒い魔素が右足に向かって流れ込んでいる。
その力の源を視る。
どこから魔素が送られているのか。
遠く、淡く光をはなっている
俺の後ろ。
「え……?」
アリーからだった。
「――――」
俺は驚愕すると同時に、ああそうなのかと、心のどこかで理解した。
きっと、これはヨクナイ。
そう思い、腰のポーチからコメント閲覧用の端末を取り出した。
<渡りがボス?>
<どういうこと?>
<えええええ!?>
<何が起こってるん?>
良かった。視聴者たちはまだ気が付いていないようだ。
アリーがそうだとバレるのはだめだ。
どうにか誤魔化して――、
その時、隣で息をのむ気配を感じた。
つい、と視線を向ける。
霧島の目がアリーに向けられていた。
「――渚! 配信を切れ!」
俺は咄嗟に叫んだ。
これから何が起こるにせよ、配信に乗るのだけは避けなければ。
《えぇ!? なんで!?》
今まで黙っていたトリランダー君から、渚の驚く声が出る。
「いいから、早く!」
<え>
<切っちゃうの!?>
<誰の声?>
<何があったん?>
《わ、わかった》
これで配信は大丈夫。
だが、次はどうする?
「総員、攻撃態勢! 全力で賞金首を討伐する!!」
迷う俺が次の手を決めるより早く、霧島が動き出した。
「え?」
「いいんすか?」
突然の指示に驚く<
「霧島! 貴様何を言ってるんだ!」
命令を無視された本田が怒りを露わにする。
「アイツが立花第七研究所から脱走した魔物に違いないんだぞ! ヤツは捕らえろと――」
「全員
どうすればいい?
逃げる。そう、俺たちは、いやアリーは逃げなければ。
「ワシの命令を無視するのか!?」
自分を視ようともしない霧島に、業を煮やした本田が前に出た。
「きゃ――!?」
直線上にいた、アリーを押しのけて。
乱暴に押され、アリーが尻もちをつく。
その瞬間、黒騎士から殺気が溢れた。
今までとは比較にならない速度で、俺たちを置き去りにして、瞬時に本田に接近する。
「ひっ……!」
悲鳴を上げる本田。
その体を守っている鎧を、無造作に振られた長剣が叩く。
流麗な剣技など見る影もない、乱雑な一撃。
「……ぐ、ぅ」
壁に激突した本田から漏れる呻き声。
幸運にも本田は切られることはなく、弾き飛ばされただけだった。
黒騎士がアリーを背にし、俺たちに長剣を向ける。
アリーを庇うように。
コアを守るための過剰行動。
コアを守るのだという姿勢。
もう、確定だった。
「ダンジョン・コア……?」
誰かの呟きが聞こえた。
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