第19話 ダンジョン・ボス

 動きが、止まっていた。


 両手を広げ、恐怖に目を閉じながら、それでも後ろにいる者を守るのだと、真っすぐに立ちふさがるアリー。


 そんな彼女の額から、僅か数センチの所で大鎌の刃は止まっていた。


 混乱したように、何かに抗うように、死神の両手は震えている。

 刃は引き戻され、再度下に落とされを繰り返していたが、彼女の肌を傷つけることはなかった。

 

「――――ッ!」


 ようやくアリーの元に辿り着いた俺は、鎌を大きく上に弾いた。

 今までで一番軽い手応え。

 跳躍し、柄を蹴りつけて死神の体を部屋の反対側まで吹き飛ばす。


 死神が壁に衝突し、ズンと部屋全体が揺れる。

 カラン、と音を立てて転がる大鎌。

 壁からズリ落ちていく、黒いローブ。


 抜け殻のようになった死神に、俺はチャンスと判断して接近し、


「ふっ―――」


 刀を振るった。

 縦に、横に、斜めに。

 連続で切り裂いていく。


 黒い霧が霧散していき、死神の体を象っていた黒いローブは散り散りになって落ちていった。


「――……すぅ……ふぅ」


 魔素が尽きかけてしまい、息が苦しい。


 ダンジョン・コアの力でそのうち復活はするだろうが、これでしばらくは大丈夫なはず。

 俺は死神から視線を切り、アリーの元へ駆け寄った。


「大丈夫か、アリー?」


 目を瞑ったままの彼女の肩に手を置いて、名前を呼ぶ。


「ふぇ……?」


 アリーは気の抜けた声をだして目を開いた。

 

 きょろきょろと辺りを見回し、自分の後ろで伏したままの人物の姿を見て、安心したように表情が崩れる。

 そして、目に涙を貯めながら、コクン、と頷いた。

 ごめんな、怖かったよな。


 死神にやられた大男は未だ地面にめり込んだままだが、呻き声は聞こえるし多分死にはしない。念のため魔素の状態も視てみたが、元々倒れていたメンバーも含めて、命に別状はなさそうだ。

 地面に転がっているトリランダー君も後回し。

 今は先に、することがある。


 俺は無言のままのアリーの手を引いて、祭壇に向かった。


 祭壇の上には、人間の物のように見えるミイラが安置されていた。

 干からび、何かを抱くように蹲った矮躯。

 ダンジョン・コアの姿はそのダンジョンによって様々だ。黄金の器だったり、巨大な岩だったりすることもある。

 このミイラに何の意味があるかは分からないが、間違いなくコレがダンジョン・コアだ。


 抜け駆けをしようとした犬人族は、近くの壁にもたれ掛かって気を失っていた。

 ホントは蹴って遠くに飛ばしてやりたいが、もうこんなやつに構っている方が時間の無駄だ。


 俺はミイラに向け、死神の緑の炎で欠けてしまった刀を振り下ろした。


 パキン、と高い音を立てて、ミイラが割れる。

 壊されたコアは端からさらさらと砂になっていった。

 コアが消滅したことで、ダンジョンはその姿を保つことができなくなり、大聖堂が上から解けていく。


 その中で、俺は魔素の動きを視た。

 

 ダンジョン・コアが壊された時、ダンジョンを形成していた魔素は近くにいる探索者の体に取り込まれる。

 一番近い俺とアリー、そして不本意ながらグラディア・コードの犬人族も大量の魔素を得るはずだ。遠くにいる残りのメンバーも僅かではあるが魔素を得られるはず。


 空中で魔素が集積していき、巨大な渦となっていく。

 その渦の末端は次第に探索者に向けられ、注ぎ込まれた。


「え――――?」



 アリーだけに向かって。



「わっ……わわわわ!?」


 アリーは何が起きているの分かっていないまま、自分に向かってくる強風に慌てだした。


 何一つ分かっていないのは、俺もまた同じだった。

 初めての事象に、俺はただ起きていることを視ていることだけしかできない。


 魔素のうねりが、見たことも無い煌めきを放ちながら、アリーだけに向かっていく。

 

 呆然としていると、やがてダンジョンが完全に消滅した。

 浸食された世界が取り戻され、大聖堂ダンジョンがあった場所は、元の森となった。

 俺の体も少女から少年へと戻る。


 ダンジョンが、攻略された。


「え? あれ? どうなったんですか?」


「……コアを壊したから、ダンジョンが消えたんだ」


「わー! じゃあ、葵さんがダンジョンを攻略したってことですね! ダンジョン攻略すると強くなるんですよね!?」


 先ほどまでの恐怖は吹き飛んだのか、「強くなりましたか?」と顔を輝かせて訊いてくるアリー。


「うん。攻略はしたよ。……強くなったのは――」


 俺は彼女にどう答えようか迷い、


「アリーもだ。ダンジョンの魔素が注ぎ込まれたから」


 今はまだ、誤魔化すことにした。

 どう説明していいか分からない。彼女がエルフという特別な種族であるためか、それとも異世界人だからか。

 恐らくは後者なのだろう。けれど、憶測にすぎないうちは伝えるのをやめておこう。


「あ……」


 やったー、と飛び跳ねていたアリーが何かを思い出したように止まった。


「あの方々はどうしましょう」


 すぐ近くに犬人族だった男が一人。離れた位置に残りの<グラディア・コード>の面々が倒れていた。


「ちらっと状態をみたけど、大丈夫そうだよ。渚の回復薬ポーションは特別製だから、効果は抜群。問題ない。後は救急車を呼んでおけばよし。放置でおーけー」


「ほ、放置ですか……?」


「そ。関わっても面倒なことになりそうだから」


 俺の説明では納得はしきれなかったのか、アリーは心配そうにちらちらと<グラディア・コード>の様子を伺っていた。

 アリーにしてみればあいつらのせいで死にかけたのに、なんとも優しいやつだ。

 俺からすれば欠けてしまった刀と使った回復薬ポーション代を請求したいぐらいなのに。


 渚と言えばと<グラディア・コード>の近くに転がっていたトリランダー君を回収する。見た目には大きな損傷はなさそう。電源を入れてみると起動もしたし、壊れてはなさそう。


「さて、帰ろう」


 こうして、少しの謎が残ったまま、俺とアリーの初めてのダンジョン攻略は終わったのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまでお読みいただきありがとうございます!

ダンジョン攻略はこれでお終い。

これから物語はさらなる展開へと進んでいきます。

是非お楽しみください。


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