アポクリファ、その種の傾向と対策【風は炎を躍らせる】
七海ポルカ
第1話
私はミルドレッド・フォンテ・ソンブレイユ。
【グレーター・アルテミス】でも指折りの名家ソンブレイユ家の出身よ。
自分で言うのもなんだけど私は癖はあるけど面倒見がいいし、性格もいいから昔から友達は余るほどいた。
金と友人と夢中になれるもの。
――この三つがあれば人生もう出来上がったようなものよね?
◇ ◇ ◇
愛車を校門前につければチェスサークルの後輩がすぐ飛んで来た。
ミルドレッドはすでにこの大学を卒業して久しいが、ソンブレイユ家はウィングレー大学に代々在籍し、多額の寄付をして来たため、今だに色々と結びつきが強い。
祖父の友人だった理事長とは今も親交深く、こうして多忙の合間を縫って訪問する間柄だ。
「センパイ、今日はサークルに顔見せてください! 新入生がセンパイに会いたがってるんです~」
ぴよぴよと後輩達が後ろをついて来る。
あらーこの子達ひよこみたい。かわいいわぁ。
「もうそんな季節なのね。今年はどんな感じなの?」
「入部届データに入れるだけで大変です。特に今年は特別だから」
ミルドレッドは笑う。
「そうね。落ち着いたらまた教えてちょうだい。盛大な新入生歓迎会しましょうね。会場はいつでも押さえてあげるから」
「いいんですか、センパイ?」
「何言ってんの。いいのよ。我がサークルの伝統だもの」
「ありがとうございます~!」
「私達も先輩とゆっくり話したいです~っ」
「聞いてほしいこと、いっぱいあって」
「あらあら大変ね。でも悪いわねぇ。今日は理事長に会いに来て、そのあとすぐ会社に帰らなくちゃいけないの」
後ろについて来た女学生達がえーっと不満げな声を立てる。
ウィングレー大のチェスサークルはミルドレッドが設立した。
今も名誉会長として色々と行事に携わっているのだ。
そんな彼女を後輩達は強く慕っている。
ミルドレッドの性格もあり、サークルのことでなく進路や恋愛相談にも時間があれば乗ってやったりしているからだ。
「明日皆でうちの店にいらっしゃいな。場所空けといてあげるわ。私も顔出すし」
「ほんとですか?」
「ありがとうございますセンパイ!」
ミルドレッド・フォンテの友好関係は男女を問わない。
だが在籍したサークルは女の割合が多かったので、大学関係の取り巻きは九割方女子が多かった。
「センパイ、今度の大会見に来てくれますか?」
いつのまにかミルドレッドの周囲には二十人ほどの取り巻きが増えている。
彼女達は皆ウィングレー大のチェスサークル【
「もちろん行くわよ。私の可愛い後輩達の晴れがましい舞台なんだから」
ミルドレッド・フォンテはチケットを取り出す。
「ただし観戦は決勝戦だけよ。いいわね?」
「わぁ~っ! 決勝のチケットだーっ!」
「すごーい!」
【グレーター・アルテミス】において、最も華があるチェスゲームの大会といえば、アカデミー対抗で行なわれる【
これは同じくチェスをこよなく愛したミルドレッドの祖父が設立した大会だった。
名門貴族であるソンブレイユ家が関わる大会であるだけに、場所も国立劇場を貸し切って行なわれる。
チェスウィークなるこの二週間の間に、本選だけでなく色々な催し物が行われるため、九回目を経た今や【グレーター・アルテミス】でも一大学生イベントとして認知されている。
昨年はミルドレッドの経営する会社が企画し、ファッションイベントが盛大に開催された為、芸能人やモデルの中にもファンが随分増えた。
【グレーター・アルテミス】全域から実力のあるチェスサークルが招待されて、全員が正装で挑むこの大会は見てる方も圧巻なのだ。
最近は協賛スポンサーが増えて、一層華やかになっている。
「貴方達なら必ずトロフィーを手に入れられるわ。信じてるから頑張るのよ」
ミルドレッドは後輩達に優しい声を掛けて微笑んだ。
迷わず決勝のチケットを手に入れたミルドレッドに後輩達は感動し体に抱きついて来た。
ミルドレッド・フォンテはすでに卒業しているが、サークル関係には足しげく関わりサークルのメンバーが困っていたり頼った時には必ず助けてくれる、慕うべき先輩なのだ。
「せんぱい~~~~~~っ!」
「ミリー様ーっ!」
女学生が一斉にミルドレッドの身体に抱きついて来る。
「絶対に優勝します!」
「大好きですーっ!」
「ホホホッなぁにこの子達ったら甘えちゃって。可愛いわぁ~♡」
ミルドレッドが校内を歩くと直接関わりの無い生徒まで一礼して道を譲っている。
ウィングレー大において、彼女を知らない者はいない。
在学中も成績優秀で文武両道、そして多額の寄付者であるソンブレイユ家の出身。
全ての者が女王陛下のように彼女に傅く。
ミルドレッド・フォンテの華やかな人生には一点の曇りも無かった。
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