五日目―巨大な真実、そして出発

 気が付くと、外が明るくなっていた。

一度、昨日の出来事を整理することにしよう。

……しかし、腹が減ったな。

先に朝食を摂ろう。そうすれば多少、気分も明るくなる筈だ。

―――キッチンで調理をすること十数分。

パン、サラダ、コーヒー。

簡素なものだが、ひとまずはこれで十分だ。

 昨日の手紙を取り出す。

一言ながら、感情が伝わってくる手紙だ。

ユダヤ人だろうか……。

ともかく、私以外の転生者が居ることは確か。

多少、身の回りには注意したほうが良さそうだ。

 そういえば、この街には図書館があったな。

そこなら、何か情報があるかもしれない……。

早速、行くことにしよう。


 支度を整え、家を出る。

街は、すでに朝を迎えていた。

清掃員が通りを掃き、露店がゆっくりと開いていく。

平和な朝だ。

 大通りを歩くこと二十数分。

重厚な石造りの建物に辿り着く。

これが、市立図書館だ。

中へ入ると、涼しい空気と本の匂いが鼻をくすぐる。

訪れている市民もまばらだ。


 まずは、新聞や雑誌のコーナーを覗いてみる。

何か、転生に関する記事……

あるいは、この世界の異変について書かれていないかと期待したが、

特に目立つ情報はない。

どれも、地元の行事や貴族間の政争、遠方の戦争などで埋め尽くされている。

期待が削がれたが、次に向かうべきは歴史書の棚だ。

国の成り立ちを知ることで、何か手がかりが掴めるかもしれない。

 書架を巡り、数冊の分厚い歴史書を手に取る。

そのうちの一冊――『クロアニア帝国史概説』が目に留まった。

冒頭部分に、興味深い一文があった。


『――この世界の文明は、千年以上前に突如現れた“ユーロパ人”によって加速した』


ユーロパ人。


聞き覚えのある響きだった。

頁を捲るごとに、私の胸は騒ぎ始める。


『ユーロパ人は突如として山中より現れ、

金属加工、建築技術、文字、議会制度、武器製造など

あらゆる技術を世界各国に伝えたとされる。

本帝国はもまた、彼らの教えを元に急速に発展した』

 間違いない。

これは、我々の世界――ヨーロッパからの転生者たちのことだ。

彼らは、この世界の近代化を促した張本人なのだ。

私は目の前の文字を、何度も何度も読み返した。

もし、これが事実なら――

この世界には、すでに転生者の足跡が色濃く刻まれている。

では、今の私にできることは何だ?

この世界の歴史に、自分も関わっていくべきなのか?

……いや、まずは生きる術を確保しなければならない。

仕事を、見つけねばならない。


 図書館を出た私は、市場や掲示板を巡ることにした。

通りには「職人見習い募集」「新聞売り募集中」などの張り紙が並んでいた。

どれも一長一短だが……力仕事は無理だな。

だが、その中で一つ、目を引く張り紙があった。


『市役所 二等事務 募集』


仕事内容は、資料整理、記録管理、書類作成。

識字と基本的な算術能力が求められる。

これならば、私にも務まるかもしれない。

 その場で住所を控え、早速応募に向かう。

市役所は市の北側にあり、警備も厳重だ。

受付で身分証を提示し、簡単な筆記試験を受ける。

歴史の知識が役に立ったのか、予想外に好感触だ。

「近日中に連絡を差し上げます」

そう言われ、その日は一旦帰宅することにした。


 夕暮れ時、アパートに戻った私はベッドに腰掛け、ここ数日の出来事を反芻した。

自死、転生、投獄、偽名取得――

そして、他の転生者の気配。

わずか五日で、人生は大きく変わった。

かつてのドイツとは決別し、新たな人生を送ろう。



             新たな世界、新たな歴史。

            まだ恐怖は拭い切れないが、

            それでも私は――


            少しだけ前に進めた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る