第3話 欺かれた神託と禁域の記憶
夜明け前の空気は冷たい。
だが、神殿都市を抜けたその先に広がる大地には、どこか懐かしい匂いがあった。
私とサラフは、荒廃した神の塔のひとつへと向かっていた。
「この塔は、かつて“問い”を封じるために造られた」
サラフが低くつぶやいた。
「神々が終末を拒否した時、創造主エオハが“最後の問い”をここに隠した」
塔はひどく朽ちていたが、その中心部に近づくにつれ、空気が変わった。
重たい気配。……いや、これは“記憶”だ。
私の胸に、再びあの光の奔流が流れ込んでくる。
塔の最深部で、エリシアが待っていた。
「……浩市」
目を閉じた彼女が、祈るように何かを抱いている。
それは、封印された“禁忌の神典”だった。
「これが、私の……存在理由」
エリシアの声が震える。
私は無言で膝をつき、神典に手を添えた。
次の瞬間、空間が反転したような感覚が襲った。
思考も時間も溶ける。
浮かんできたのは、始まりの世界——。
創造主エオハが語る。
『この世界は、進化の終点で終わる。終わりは、始まりの条件』
だが、その意志を相対神たちが拒否した。
『存在は、永遠であるべきだ』
彼らは、自らの消滅を恐れた。
だから、人類に嘘を伝えた。
『我らと共にあれば、永遠が得られる』
そして人類は、終末を忘れた。
——世界は、誤って継続されている。
「……嘘だ」
私の口から漏れたのは、否定でも信仰でもない、ただの驚愕だった。
「浩市……あなたも、計画された存在だったの」
エリシアが囁く。
「あなたの哲学も、“問う者”としての役割も——すべて、神典に記されている」
目の前が暗くなった。
自由意志は……なかったのか?
私の“問い”は、最初から定められていた?
——それでも。
「私は……問い続ける」
震える声を、誰に向けるでもなく言った。
「誰かに与えられた問いだとしても、私が“それ”に苦しんできたのは事実だから」
そのとき、光が走る。
神典が開かれ、封印が解ける。
塔が唸り、空が震える。
神々の塔が、私たちを睨んでいた。
そして、その中心から——
神官リュミエールが、静かに現れた。
「あなたがそれを知った今、私はあなたを止める義務がある」
彼女の声には、怒りも悲しみもなかった。ただ、覚悟があった。
私は立ち上がる。
「……だったら、私に問いを返せ」
リュミエールは、わずかに目を細めた。
そして言った。
「人は、なぜ神を必要とするのか?」
問いが、再び私を揺さぶる。
答えは出せない。
けれど、その揺らぎの中にこそ、私の“哲学”はある。
問い続けること——それだけが、私の真実だった。
第3章 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます