第5話 俺の人生は絶望的だ…けれども

 有真彰輝ありま/あきてる熊谷飛鳥くまがい/あすかは、作戦を立てていた。

 二人のターゲットは、同じクラスメイトの滝沢來未たきざわ/くみ

 どこか怪しい雰囲気を持つ彼女を、じっくりと観察して、その正体を暴こうというものだ。


 翌日。彰輝は飛鳥と肩を並べて登校しながら決意を新たにした。


「どこかでボロを出すはずだよな。絶対に、犯人は來未で間違いないし。でも、ハッキリとした証拠がないから断定できるわけじゃないけど」

「でも、私、來未が犯人だと思うわ。あの子の化けの皮を剥してあげないと」


 飛鳥は真剣な目で、隣にいる彰輝の事を見やった。

 彰輝が彼女に対して軽く頷くと、二人の間で絶対に解決させようという思いが、さらに強く芽生えるのだった。


 二人は教室に入る。

 そこにはすでに友人らと会話する來未の姿があった。

 彼女はいつも通りに、人前では自然に振舞っている。笑顔で友人らと話す姿は、一般的な陽キャ女子そのものだ。


 彰輝と飛鳥は、いつも通りに席に着いて、それから朝のHRや午前中の授業を受ける。

 來未とは一緒の教室で生活しているが、今のところ彼女がボロを出す瞬間などなかった。


 異常なしかぁ……。


 彰輝はため息交じりの言葉を漏らしており、隣の席の飛鳥も眉をひそめていた。

 それでも二人は諦めたくなかった。


「彰輝君、もう少し観察していれば何かわかるかも。もう少し頑張ろう」

「そうだな」


 二人は教室内にて、小声でこっそりと会話し、授業合間の内にやり取りを交わすのだった。




 その日の昼休み。

 中庭のベンチに腰掛けた彰輝と飛鳥。

 二人は午前中の授業を終わらせ、作戦の立て直しに頭を悩ませていたのだ。


「なんか……全然ダメだったね」


 飛鳥がサンドイッチを頬張りながら言うと、彰輝はため息をつき、彼女が持ってきたサンドイッチを食べる。


「だな……來未のヤツ。普通に生活している分には、本当に普通の子だもんな。俺もあの姿に騙されてしまったわけだけどさ」


 彰輝は、過去の自分の愚かさを呪ってしまう。


 二人は昼食時間帯に、來未の行動パターンを振り返っていたのだが、全くボロを出さない彼女の立ち振る舞いに、正直なところ手詰まりを感じていた。


「嘘がバレないように生活しているとか、凄いね。あの子。もしかして、策士的な?」

「策士か……そうかもな」


 飛鳥の言葉に、彰輝は頭を抱えて返答した。

 本当に他人を騙すのが上手いと痛感していたのだ。


「でも、どうすればいいんだろ」

「私もわからないわ」


 彰輝はサンドイッチを咀嚼していた。

 隣にいる飛鳥はスマホを弄っており、スマホ画面を前に目を丸くしていたのだ。


「ちょっと、彰輝君。これを見て!」

「ん? 何?」


 彰輝が彼女のスマホ画面を覗き込むと、その画面には学校の裏掲示板となるページが映っていた。


「学校の公式HPにこんなのがあったなんて知らなかったんだけど」

「私も。何となく探していたら、このページに辿り着いたって感じ」


 画面上には、学校行事に関する話題や男女関係のスキャンダルらしき書き込みがズラリと掲載されている。


「浮気した奴がいるっていう話とか。色々とダークな内容ばかりだな……って、ん?」


 飛鳥のスマホ画面を見ていると、一つの書き込みが彰輝の視界に入る。


「二年B組の陰キャ男子。実は浮気性らしいよ。陰キャのくせに超キモいんだけど」


 名前こそ伏せられているが、クラス名と特徴からして、どう考えても彰輝の事だった。


「は⁉ な、なにこれ⁉」


 彰輝の声は裏返り、その記事に対して飛鳥は憤慨していた。


「ちょっと、これ酷すぎじゃない! 彰輝君にこんなこと書くなんて許せない!」


 飛鳥の怒りっぷりに、彰輝はちょっとだけ安心した。

 自分の為に、ここまで怒ってくれている事に、彼女の優しさを感じられたからだ。


「これって來未が書いてる可能性高いよね」


 彰輝が冷静に言うと、飛鳥も頷いた。


「そうだよ。そうじゃなきゃ、こんなにピンポイントに書かないって」


 二人は目を合わせて、決意を固めた。


「あの子の裏の顔を暴くために、もっと調べるしかないね。アニメの主人公だって、こんなところで諦めないしね」


 飛鳥の言葉に、彰輝は救われていた。

 彼女もどこかで協力してくれるかはわからない。

 元を辿れば、彰輝自身の問題であり、彼女を頼ってばかりではいられないと内心感じていた。




 放課後。彰輝は帰宅前の学校廊下にて、妙な視線を感じていた。

 見ず知らずの他学年の生徒らが、ヒソヒソと彰輝を話題にしているからだ。


「ね、あの人って例の……」

「うわ、マジで? 噂本当っぽいね……」

「陰キャなのに、アレなんでしょ」

「そうらしいね。調子乗ってるって感じ」


 そんなヒソヒソ声が耳に入るたび、彰輝の気分はどん底に沈んだ。

 彰輝が一人で学校を後に通学路を歩いていると、背後から駆け足で追いかけてくる飛鳥の姿があった。


「彰輝君。今日は一緒に帰ろ!」

「用事があるんじゃなかったの?」

「それはキャンセルしたわ。後でも出来る事だし。今日は彰輝君と帰りたいと思って。色々と心配だからね」


 飛鳥は、彰輝の隣を歩く。

 二人が向かう先は街中である。

 街中のファミレスとかで改めて作戦会議を行う為だった。


「でも、俺の為に協力してくれるのは嬉しいけど。熊谷さんの方は大丈夫な感じ?」

「私のことは気にしないで。私、こんなことでヘコたれないし。大丈夫だから」


 飛鳥の言葉に、彰輝は胸が熱くなった。

 本当に彼女と付き合って正解だったと改めて思った。


「ありがと、熊谷さん。ホント、助かるよ」

「いいって! だって私、彰輝君と一緒に戦ってるんだから! ここで裏切ったら、彰輝君の彼女の意味がないでしょ! 趣味も同じ子を放ってはおけないしね」


 飛鳥は本当に他人想いだった。

 二人は並んで通学路を歩き、夕焼けに染まる道や景色を眺めた。

 その時、飛鳥が突然立ち止まったのだ。


「ね、ちょっとこれ見て!」


 街近くの交差点付近。

 飛鳥が差し出してきたスマホには、学年のSNSグループに送られてきた謎のメッセージが表示されていた。


「來未のことについて話したいことがある。街の喫茶店で待ってる。マジで真剣な話だからだって」

「これ、誰から?」


 彰輝が首を傾げると、飛鳥も眉をひそめた。


「わかんないけど、同じ学年の子だと思う。でも、こんな大事な話、直接会って話したいって、もしかして釣りじゃなくて本気の話かも」


 二人は顔を見合わせ、ゴクリと唾を飲んだ。


「こ、これは……行くしかないよな?」

「うん、絶対ね。來未の秘密を掴めるかも……?」


 夕暮れの街に響く二人の足音。

 彰輝と飛鳥は真相を確かめる為、交差点の信号が青になった瞬間に、目的となる喫茶店へと駆け足で向かったのだ。

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