第2話 二人は好きなアニメについて熱く語る

 放課後の教室は、部活や帰宅の準備で賑わっていた。クラスメイトらは各々の友達と笑い合いながら教室を後にしていく。

 そんな中、有真彰輝ありま/あきてるは机の上に広がった教科書などを通学用のリュックにしまっている最中だった。

 隣には、今日から付き合い始めたばかりの彼女――熊谷飛鳥くまがい/あすかがいる。彼女もまた、バッグにノートをしまいながら軽やかな動きで準備を進めていた。


「彰輝君、準備終わった?」


 飛鳥が少し首を傾げながら、明るい声で尋ねる。


「ちょっと待って。あと少し!」


 彰輝は教科書をリュックに押し込みつつ、苦笑いを浮かべた。


「それで、どこのアニメショップに行く? アーケード通りの店でいい? それとも別のとこ?」


 飛鳥の目はキラキラと輝き、これから冒険に出る人みたいに胸を躍らせているようだった。


「うーん、どっちでもいいけど、品揃えならアーケード通りの方がいいよね、多分」


 彰輝は少し考えつつ答えた。


「うん、そうだね! でも、別の店だと近くにオシャレな喫茶店がいっぱいあるよ?」


 飛鳥は指を立てて楽しそうに提案する。


「そっか。じゃあ……でもな、今日はアニメショップだけでもいいかな。アーケード通りで」


 彰輝は軽く笑って結論を出した。


「わかったわ。アーケード通りの方ね」


 飛鳥は、彰輝からの返答を聞き、満足げに頷いた。


 二人はそんな軽快なやり取りを交わしながら、教室を出る準備を終わらせていたのである。

 そんな時、彰輝は背後から鋭い視線を感じた。不思議に思い振り返ると、教室の後ろの席で肩にバッグをかけていた元カノの滝沢來未たきざわ/くみが佇んでいた事に気づく。

 彼女は一瞬、彰輝をじっと見つめていたが、すぐに視線を逸らし、友達と一緒に教室を去って行ったのだ。


「どうしたの?」


 飛鳥が不思議そうに尋ねる。


「んん、なんでもない。それより、早くアニメショップ行こう」


 元カノからの視線が少し気になるものの、彰輝は首を横に振り、笑顔で誤魔化していたのだ。


「うん、そうだね」


 飛鳥もニコッと笑い、二人は学校を後に街中まで向かうのだった。


 アーケード通りは、夕方の喧騒に包まれていた。人々が忙しなく行き交う中、彰輝と飛鳥は肩を並べて歩き始める。少し進んだ先に、目的のアニメショップの派手な看板が目に入った。色とりどりのアニメキャラが描かれた看板は、まるで二人を異世界に誘う魔法の門のようだ。

 店内に足を踏み入れると、最新のアニソンが軽快に流れ、店全体を盛り上げていた。アニソンのリズムに合わせて、彰輝の心も自然と高揚していく。飛鳥もまた、目を輝かせて店内を見回していた。


「この曲、テンション上がるよね!」


 飛鳥が笑顔で言う。


「アニソンってだけでテンション上がるよね」


 彰輝も笑顔で返答しながら、二人で店内を探索し始めた。


 少し進んだ先に、壁に貼られた大きなポスターが目に入った。今期の大人気深夜アニメのポスターだ。このアニメは、回復能力という地味なスキルだけで主人公が戦い抜く、斬新なストーリーが話題を呼んでいた。


「これ、今期の作品じゃん」


 彰輝がポスターを指差す。


「うん! そのアニメ面白いよね! 私、毎週欠かさず観てるよ。でも、そろそろ最終回っぽい雰囲気だよね……」


 飛鳥は少し寂しそうに言った。


「だな。でも毎回ハズレ回がないってのが凄いよな。アニメ脚本家の構成がいいのか、原作漫画が神なのか……どちらにせよ、今期のトップ三には絶対入るんじゃないか」


 彰輝は、そのアニメについて熱く語った。


「だよね~、わかるよ、今期アニメの中でも優れてる方だよね! 特にさ、主人公が逆回復魔法を覚醒させた回! まさかそんな展開になるとは思わなかったよー」


 飛鳥も興奮気味に続ける。


「それね。しかも前世が魔族だったって判明したのもヤバかったよな。あの設定のおかげで逆回復魔法の謎が解けたし!」


 彰輝の声にも熱がこもる。

 二人はアニメの話題で盛り上がりながら、店内のアニメグッズコーナーへ移動した。

 そこのコーナーには、アクリルスタンドやキーホルダー、缶バッジ、マグカップなど、ファン心をくすぐるグッズで溢れていたのだ。

 飛鳥は目を輝かせ、とあるアクリルスタンドを手に取った。


「これ、ずっと欲しかったんだ! 前回来たときは売り切れてたの!」


 飛鳥は嬉しそうに言う。


「へえ、じゃあ買った方がいいんじゃない? 欲しいなら今がチャンスだと思うし」


 彰輝は同じアニメオタクとして促した。


「うん、買う! 彰輝君も何か一緒に買わない?」


 飛鳥がキラキラした目で尋ねる。


「んー、じゃあ記念に何か買おうかな」


 彰輝は少し考え、キーホルダーコーナーに目を向けた。

 彰輝が手に取ったのは、今絶賛放送中の回復アニメに登場するヒロインが描かれたキーホルダー。愛らしいデザインに、思わずニヤリとする。


「彰輝君は、そのキャラが好きなの?」

「そうなんだよね」


 彰輝はキーホルダーを手に、満足げに笑った。


「ヒロイン派か! 私は主人公推し! 見た目は普通そうだけど、実はめっちゃ強い系のキャラが好きなんだよね」


 飛鳥も自分の選んだキーホルダーを見せながら笑った。

 二人はグッズを手に、楽しそうに会話を続けたのだ。

 飛鳥と一緒にいると、彰輝は自然体でいられる。趣味が合うからこそ、こんなにも心地いい時間が過ごせるのだ。


 二人は各々の買い物を終わらせると、店内のドリンクコーナーへと向かう。

 そこのコーナーは、ちょっとしたカフェスペースのようになっていた。ジュースやケーキが並び、自由にくつろげる雰囲気が漂っている。他の客たちもアニメ談義に花を咲かせ、店内は和気あいあいとした空気に包まれていたのだ。

 彰輝と飛鳥は向かい合って座り、ジュースを片手にアニメの話を続けた。


「ねえ、彰輝君はあの回復アニメのどのシーンが好き?」


 飛鳥が興味津々に尋ねる。


「俺はやっぱ、主人公が力を解放するシーンかな。物語の序盤で、パーティーから追放されてさ。一人で旅してる時にヒロインを助ける場面。あの解放の瞬間がめっちゃ熱かったね」


 彰輝は目を輝かせて熱く語った。


「わかる! あの不可能を覆す瞬間は、鳥肌が立つよね! えっとね、私は、追放したパーティーの奴を主人公が助けるシーンが好きかな。嫌な奴でも助ける、その主人公の性格が好きかな」


 飛鳥も熱く語る。


「うんうん。でも、確か。最新話で、嫌な奴が実は主人公の前世が魔族だったってことを見抜いてて、仲間を守るために追放したって判明したでしょ。あの展開はマジで予想外だったよ」


 彰輝は興奮気味に言った。

 二人はアニメの考察を交わしながら、時間を忘れて語り合ったのだ。気づけば、店内の窓から見える景色はすっかり暗くなり、スマホ画面を見やれば、時計は六時半を指していた。


「やば、結構遅くなっちゃったな。そろそろ帰ろうか」


 彰輝が少し慌てて言う。


「うん、そうだね。あと、今日はありがとね。私、楽しかったよ。ここまで同じ趣味の人と会話できたの」


 飛鳥は満足げな表情で笑った。


 二人はアニメショップを後にし、夜の街を歩き始めたのだ。心はまだ、熱いアニメの話題と、二人で過ごした楽しい時間で満たされていたのだった。

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