第20話 便意

血溜まりに倒れるベラニー。

どう見ても過剰攻撃。

キメラ合成人で無ければ即死級の技を受けたのだ。

その光景に唖然とする者も居れば、心から盛り上がる者たちも居る。

死んでいないと言うことが分かっているから盛り上がっているのだろうか。それとも女の子がいたぶられている様子を見るのが好きなのか。

ともあれこれは公式試合。

ボーナが言っていたように死者が出てもなんの責任も無ければ問題も起きない。

それはこの宇宙トーナメントに限った話ではない。空手やボクシングなどのも契約書にはだいたい【死】についての公約がある。

そこには恨みも何もないのだろう。

倒れているベラニーを運ぼうと担架を用意する救護班。

しかしまだ何かする気なのかショコラは白目で近づき鋭利な爪を伸ばす。

これ以上の攻撃は反則である。


「おいおい…こりゃ酷いな…。」


「何してんだスタッフ!!!さっさと止めろや!!!」


叫ぶクエスチョナーたち。

スタッフがちんたらしているので堪らずサーシャとマンナがリングに駆け上がり飛び蹴りをかました。

吹っ飛ぶショコラ。

マンナは即座にベラニーを担ぎ救護班の元へ走った。


「お前ぇ…それ以上は流石に度越しとるやろ。なりたいんか…【人殺し】に。」


サーシャがショコラを睨みつけると我にかえったのか白目に瞳が宿り辺りを見渡した。

周りに飛び散った血、両手を青く染める血、全身に付着した血。

全て自分がやったんだと。

サーシャはショコラの事を残酷な異星人と思っていたが何やら様子がおかしい。

最初こそ試合直前まで冷徹な目で相手を見つめる感情が無いような女だと思っていた。

しかし周りの観客たちは気づかなかっただろうがサーシャは感じ取った。一瞬眉を寄せおびえた目をし、恐怖したショコラを。

ショコラはすぐにその場を離れどこかに走っていった。


「…………………あの子…もしかして…。」


スタッフに声をかけられリングから降りるサーシャ。

Cブロックの試合が始まるのでそれまで控室で待機して欲しいと頭を下げられ感謝された。

動きの遅いスタッフたちに苛立ちを覚えつつもその場から離れ歩き出す。

次の試合はルーヴァとマクロビである。


「次の試合、2人やね。」


控室でルーヴァとマクロビに声をかける。


「んだんだ!!!負けねぇべ!!!オメェ、マクロビちゃんも全力で来いよ!!!」


「まぁ元気いっぱいお下品だこと。でもまぁ良いですわ。私の力がどれ程のものか、お教え差し上げましょう。」


2人は足取り勇ましくリング中央に続く細い通路を目指した。

その手前、マクロビから小さな声でサーシャは耳打ちをされた。

小さな声だったので本当にそう言っていたのかはわからない。

しかしサーシャにはそう聞こえたようだ。


「貴方の事好きではないですが、先程の行動。嫌いではありませんでしたわ。」、と。


次にはっきりと聞こえる声で、「せいぜい私の華麗なる戦いをご覧なさいな!」と叫ぶマクロビ。

指をビシッと指すのは勿論サーシャ。


「ごめん!ウンコしてくるわ!さっきから我慢してんのよ!それ終わってから見るわな!!!」


ズコーッ!!!


両手を合わせゴメンねと謝る。

マクロビはさっきのセリフを呟いたことに少し後悔を覚えた。


「えっと…トイレ、トイレっと…。お、あそこかい。」


早歩きでトイレを目指す。

さっさとクソを捻り出しルーヴァたちの試合が見たい。そう思いつつトイレに入ろうとした時であった。


ウ………、ウゥ…………グスン…、アゥ……


誰かのむせび泣く声が聞こえてきた。

こんな言い方をするのもどうかと思うが、泣き声も透き通っておりとても綺麗な声である。

歌などを歌わせたら美声で客を魅了するだろうと想像を掻き立てられる。

どこから聞こえるのか探していると、どうやらトイレの近くの奥側の廊下。そこに小窓が付いており少し開いている。

ゆっくりと近づき顔を覗かせた。

そこは外庭の隅っこのような場所であり、ぺんぺん草が太もも辺りまで生えている。

頭を両手で抑え苦しみながら泣きじゃくる者の正体。

それは先程戦っていたショコラであった。


「ごめんなさい…ごめんなさい……。」


何度もそう呟く。

ショコラもまた訳ありなのだろう。

サーシャも少し悲しそうな寂しそうな顔をしながらその様子を盗み聞き。

最後まで聞きたいと思う気持ちもあったが、何より今はウンコがしたい。

トイレに向かった。


「もう私…死んだほうが良いのかな…。」


去り際に消え入りそうなショコラの涙声を聞き流すことなく。

肛門に力を込めつつ。






「ふぅ〜っ、デカいの出たからケツめっちゃ痛いんやが。どないしてくれんねん。」


知らんがな。

トイレを済まし選手専用観客席に戻るサーシャ。

因みにトイレの後確認してみたが既にショコラは居なかった。

どこかに移動したのだろう。

早いとこ戻ってルーヴァの応援をしたい。

少し小走りに走ったが何故かルーヴァが控室に居た。何ならマクロビが漫画のようなグルグル目で担架で運ばれている。


「え、もう終わったん?アンタ負けたん?早ない?」


「く………こ、こんなの…認め…られません…わぁ〜………。」


そう言い残し気絶。

メディカルポッドに運ばれていった。

ルーヴァは綺麗な歯を見せピースサイン。

周りのスタッフや観客に聞くと一瞬でケリがついたようだ。

これで取り敢えずお互いに1回戦は勝利。

第2試合がどう運ばれるかが楽しみである。

すぐ後ろではマンナがステップを踏んだりストレッチをしている。

次はマンナの出番。

真剣な顔で準備しているので敢えて声はかけない。

アイコンタクトを送るのみである。

整ったのか、フゥ…と息を吐き頬を叩く。


「それでは!行ってきます!」


「行ってらっしゃい!頑張ってな!」


美しくも鍛え上げられた大きな背中を見送るのであった。


[お待たせ致しましたッッッ!!!第1試合Dブロックの試合を行いたいと思いますッッッ!!!]


ウオオオオオオォォォォォッッッ!!!!!


人物紹介を行うだけでこの盛り上がり、熱狂度。 

1つの試合自体中々どうして長いにも関わらず、こんなにも集中して見れるのであるからそもそも観客も体力が凄まじいのだろう。


[赤コーナーッッッ!!!イルカ座・惑星スアロキンから参戦!!!弱冠19歳にしてクトゥルフ空手初段!!!大会参加理由はクトゥルフ空手を世に知らしめる事と腕試しッッッ!!!]


[身長186cm!!!体重75kg!!!魔力………ぇっ………ゼ、0パワーッッッ!!!魔力などなくても己の身体を武器に戦うべし!!!エルフ族のおおぉぉぉぉッッッ!!!マンナ・ウェアァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!] 


ウオオオオオオォォォォォ!!!!!


「おっぱい!!!エルフIカップおっぱい!!!」


「キャー!!!マンナちゃんカワイイー!!!」


「結婚してくれぇぇぇ!!!」


「えっ!マンナちゃんて魔力あらへんの!??!そんな子もおるんか…。というかさっきから気色悪い応援しとるやつなんやねん。」


「難病の1つだね。まさかこの大会に出るとは思わなかったけど。」


聞き覚えのある声なのでふと後ろを振り向くとアスカがこちらに向かい歩いている。

もう大丈夫なのかと心配するも、メディカルポッドのお陰で回復したようだ。

試合自体には負けてしまったが、自分に勝ったサーシャの優勝を見届けたいらしくここに大会最後まで残るらしい。

そういう事ならと、一緒にマンナを見届けることに。


[青コーナー!!!琴座・惑星ペギラ出身!!!凍てつく氷は全ての事象を凍らせる!!!この少女に死角はない!!!それにそれに!!!かの有名なトコヨ海賊団のキャプテン・バルカンの右腕!!!身長182cm!!!体重60kg!!!魔力550万パワー!!!]


[ディア・フローズンッッッッッッッッッ!!!]


ウオオオオオォォォォォォォッッッッッッ!!!!


「キャー!!!ディア様ぁぁぁぁぁッッッ!!!」


「Gカップ!!!安定のGカップ!!!」


「結婚してくれぇぇぇ!!!」


観客に手を振るディア。

気持ち悪い声援にも答えるがかなり小さめに舌打ちをかます。

まぁこの応援男から見ても気持ち悪いしね。

仕方ないね。


[両者前へ!!!]


いつものお約束。 

一旦中央に寄り拳を合わせ挨拶。

マンナはその瞬間全身に悪寒が走る。

強い。尋常では無いオーラ。

冷や汗が流れるが返って好都合。

自分よりも強い相手と戦える滅多にない有り難い好機。

やはり自分は恵まれていると真剣な顔でディアを見つめた。

ディアは細めの目で薄ら笑いを浮かべる。

余裕なのだろうか。

両者がリングの両端に戻り、少しの静寂が流れた後ゴングが高らかに鳴らされた。
















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