第18話 キメラ合成人
観客の声援を受け両拳を天に突き刺したり投げキッスを送るサーシャ。
ご機嫌である。
服や皮膚はボロボロであり、血が固まり全身を覆うも事が終われば元気な様子ではしゃぐ。
本当に地球人なのだろうか。
しかし熱いコールを受けたのはほんの数秒。
すぐさま対戦相手であったダウンしているアスカの元に駆けつけ手を取り、硬くハンドシェイク。
「アタイ…負けたんだね…。強かったよサーシャちゃん…。」
「こっちのセリフや!ありがとうなアスカちゃん!楽しかった!また戦おうや!」
「次の…試合も勝ってね…。サーシャちゃんの優勝…心から祈ってるから…。」
細い目を頑張って開けているアスカは体力的にもギリギリなのだろう。しかし、全力をぶつけた上での敗北からなのかどこかスッキリした様子である。
そのままお姫様抱っこで抱え、医務室に向かうサーシャ。
本来ならば救護班が担架で運ぶのであるが自分が運んだ方が早いと判断したのだろう。
せっかちな性格が良くも悪くも出ている。
スタッフに止められるも無視し、医務室へ向かうのであった。
「ケッ、あの単眼娘もまぁまぁ強かったけどまだまだだな。誰があのバカ女倒してくれんだよ。」
現時点でクランベリーチョコパイ7個目に手を出しているボーナが愚痴を零す。
「お前情緒不安定な訳?」
クエスチョナーに話しかけられるも、僕はいつだってエリートさ、としたり顔で答える。
いや答えになってねぇから。
グレートは腕を組みつつ、眉をひそめ…て、眉無いけどそれっぽい真剣な雰囲気でリングを睨んでいる。
「しかしあくまでもこれで1回戦…。やっぱり宇宙はクソ広いな…。後に控えてる奴らはもっと強いと思ってた方がいいだろう。」
しかし自分たちに出来ることはサーシャたちを応援することだけ。
静かに見守るのであった。
心から勝利を祈って。
少し駆け足で控室に戻るサーシャ。
それに気づいたマンナたち。
1回戦初勝利を飾った事について賛美を送る。
「おめでとうございますサーシャさん!」
「んだんだ!!!まずは1回戦打破しただな!」
「フンッ、たかが1回戦じゃありませんの。私と戦う時までに精々その調子を保ちなさいな。」
マクロビだけはやはり冷たい。
サーシャはそれに対しやったろうやないか!と意気込みを返す。
その動きを見てか、マンナがとある事に気づいた。
「サーシャさん…傷…。」
「あっ、そう言えば…。ほとんど…治ってねぇだか?」
なんと先程の激しい戦闘を終えた直後にも関わらず傷がほとんど癒えていた。
傷口は塞がり、打撲後はいつもの綺麗な柔肌に戻っている。
魔力で回復したのかと聞かれるも、サーシャはそんな事していない。なんなら魔力で回復出来る事すら知らなかった。グラーケンが教えてくれたやろが。
物凄い回復力だと感心する2人。
後ろから唐突に声をかけられた。
「あぁ、はしゃいでるとこ悪いけどよ。どいてくんねぇか?」
振り向くとそこには青い肌のメイド服を着こなす女の子が居た。耳にピアスを開け、ヤンキーなまりの喋り方、ダルそうな垂れ目。普通のメイドではなさそうである。
控室にも関わらずタバコを咥えている。とはいえまだ火は着いていないので本当に咥えているだけだ。
マクロビに細い目でここは禁煙ですけどと言われるとハッと気づきタバコをすぐに直す。
「悪ぃ悪ぃ、つい咥えちまうんだよな。」
「わかるわぁ〜。ウチもタバコ吸うから痛いほど気持ちわかるわ。」
「あ?マジ?宇宙でも喫煙者はゴミ扱いだからなぁ。地球みたいな田舎だったらいけるだろと思ったらこれだよ…。あ、てか1回戦勝利おめでと。」
この子の名前はメイク・ベラニー。
異星人ではなく、キメラ合成人らしい。
とは言え元の素材である異星人は居ただろうが、全く記憶にないらしい。
今から行われる試合に出るらしく、リングに向かおうとしたら目の前にサーシャたちが居るので声をかけたということらしい。
「喫煙者…下品ですわね。」
「あ?つってもタバコは葉っぱだぜ?美味いもん吸わせてもらってるよ。なんだ、同族がそんな扱いされるのが嫌な感じ?」
「別に同族じゃありませんわ。ご勝手に。」
マクロビはその場から去っていった。
ボケェーッと見送るベラニーであったが、行くわと言い残しリングに向かう。
「頑張ってなベラニーちゃん!」
「ファイトです!」
「んだんだ!」
声援を受けたので歩みを止め振り返るベラニー。
「なんで応援すんだ?後々殴り合いするかもしれねぇ相手に対して。」
「そら応援するやろ。寧ろ戦いたいからかも知れんけどな!それにアンタから言うてくれたやん。勝利おめでとうって。」
少し沈黙が流れる。
ベラニーは不思議な言葉を投げかけられたかのような表情を浮かべ、踵を返し歩いていった。
背中で語り手の甲を振る。
「サンキュ、お前らも頑張れよ。」と。
(………どいつもこいつもクソだらけって思ってたけど…、宇宙は広いんだな親父。敵に声援送るバカ正直な奴らもどうやら居るみてぇだわ。…………案外世の中捨てたもんじゃねぇかもな…。)
細い廊下を歩き終え、太陽照らすリングに上がる。
周りは当然のごとく大歓声。
(待ってろよ親父…。研究費用の借金…、絶対に返してやっからよ。)
[皆様お待たせ致しましたぁぁぁ!!!1回戦Bブロックの試合を行います!!!まずは青コーナー!!!惑星シグマからやってきたぁぁぁ!!!身長178cm!体重68kg!魔力830万パワー!キメラ合成人のぉぉぉ!!!メイクゥゥゥベラニィィィッッッ!!!]
ウオオオオオオオォォォォッッッッッッ!!!
更に盛り上げるために両腕を天に突き刺すベラニー。
「おっぱい!!!おっぱいメイドッッッ!!!」
「カワイイー!!!ベラニーちゃん頑張ってー!!!」
「Jカップでっけぇぇぇー!!!」
何故かアスカが入っているメディカルポッドからうめき声が聞こえた。
(なんで胸のサイズ知ってやがんだ…。で…、オレの対戦相手がアイツか…。)
ストレッチを終え、高く跳び上がりリングインする異星人。
見た目は恐竜そっくりの女の子。
プトル系だろうか。
着目すべきはその大きさである。
身長は2mを軽く超え、全身灰色。
そしてバカでかいおっぱい。
[赤コーナー!!!惑星ジュランクからやってきたぁぁぁ!!!身長241cm!体重165kg!魔力590万パワー!ディノサウロイドのぉぉぉ!!!ショコラ・カーレードオオオォォォォォォ!!!]
ウオオオオオオオォォォォォォォォッッッ!!!
「Kカップ!!!Kカップおっぱい最高おおぉぉ!!!」
「ショコラちゃん結婚してくれえええぇぇぇ!!!」
「引き締まった筋肉良いよおおぉぉぉ!!!素敵ぃぃぃ!!!」
何故かアスカの様態が悪化。
本当に大丈夫であろうか…。
「貴方が私の対戦相手ですか。よろしく。」
「へぇ、律儀なんだな。お前も色々理由があってここに居るんだろうが…、オレにも負けられねぇ理由があるんでな。勝たせてもらうぜ。」
しかし思う事がある。
ショコラの瞳がとても冷たいのだ。
いや、冷たいのはその通りなのだがその奥に在るもの。それはどちらかと言えば…
(コイツも訳ありか…。って、相手の事考えても仕方ねぇ。)
後ろの控室に直通する近くの椅子ではサーシャたちが応援してくれている。
そして両者が中央に寄り、拳を合わせる。
その後両端まで戻るとゴングが高らかに会場に響き渡った。
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