第27話「揺れる肌と、変わらぬ一本」



自分に合う化粧品を見つけるという行為は、想像以上に難しい。

年齢、季節、体調、生活リズム。肌というのは、私たちの内面と外の環境、両方に敏感に反応する。だからこそ、ひとつの化粧品と長く付き合っていくことは、案外ハードルが高い。たとえそれが高価な製品であっても、誰かの「これは本当に良かった」という実体験があっても、自分の肌にとっての“正解”である保証はどこにもない。


私もこれまで、数え切れないほどの化粧品を試してきた。

安価で手に入りやすい大量生産の品もあれば、SNSで瞬く間に話題となった“バズりコスメ”もある。昔からある老舗ブランドや、友人にすすめられた愛用品、化粧品カウンターの店員さんが熱心に選んでくれた製品も、いくつも手に取った。けれど、そのどれもが「しっくりくる」と感じられた試しが、あまりない。


そんな私の洗面台に、ずっと置かれ続けている一本がある。

それが「美顔水」だ。


青紫がかった透明の硝子のボトルと、どこか懐かしい薬品のような香り。

初めて手に取ったのは中学生の頃、思春期特有のニキビに悩んでいたときだった。薬局で母が選んでくれたそれを、なんとなく使い続けていた。すぐに肌が劇的に変わるわけではない。だが不思議と、「これをつければ少し安心できる」という感覚だけは、ずっと残っていた。


明治18年から販売され続けているという、美顔水。

130年以上もの長きにわたって店頭に並び続け、今なお「ニキビといえば美顔水」と語られるその事実は、それ自体がひとつの信頼の証なのかもしれない。


サリチル酸が毛穴の汚れを落とし、ホモスルファミンがアクネ菌を殺菌する。過剰な皮脂をおさえ、肌をさらりと保ってくれる。科学的に語られる効能はもちろんあるが、それ以上に私にとってこの一本は、“変わらないものがある”という安心の象徴のように思える。


流行が目まぐるしく移り変わる美容の世界において、「昔からあるものを使い続ける」という選択は、時に保守的に見えるかもしれない。だが、自分の肌の声に耳を傾け、必要なときに戻ってこられる一本があることは、とても心強い。


美顔水は、派手さのない、地味な存在かもしれない。

だが、使うたびに私を中学生の頃の素直な気持ちに立ち返らせ、今の私の肌をそっと落ち着かせてくれる。そんな静かな役割を、ずっと果たし続けてくれている。


たくさんの選択肢の中から、また迷い、彷徨うこともある。

けれど、私はたぶん、これからもふとした瞬間に、美顔水を手に取るだろう。


それは単なる習慣ではなく、私自身の“肌の記憶”と寄り添う時間なのだ。



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