16「石鹸を作ろう」

 俺はいつものように朝のルーティーン作業をこなす。

 作動しているのに、魔物を仕留められていない罠の数はさらに増えていた。


「さてどうしたものか……」


 ちょっと考えて、すぐに今日の仕事に頭を切り替える。


 暖炉も河原の焚火も灰は回収して全てストックしていた。

 これは石鹸作りに必要な素材で、山荘の裏に積まれている薪もあえてそのような種類であった。元主人も多分同じように石鹸を作っていたんだろう。


 石鹸制作は孤児院で何度もやっているので慣れたものだった。

 地下工房の排気口で換気の風元素を発動させる。

 大きな容器ボウルに木灰を適量入れ、錬金術で処理した反転酸性の水を加え混ぜ合わせる。


 これを一日おくので続きの作業は明日だ。



 翌日、布で三回ほど濾過すると黄色みがかった透明な水となった。

 ちょっとだけ指で触って状態を確かめる。ぬるぬるとした感触――。


「うん、いけそうだ」


 植物油を鍋に入れ炙り台の上に置いて、火元素で加熱した。

 温度計をいれて六十度まで加熱し火を止める。

 水を少しずつ加えて、木べらで手早く攪拌かくはん


「粘りついてきたな。いい感じた」


 この辺は何度もやっている経験がものを言う。ここで香料などを入れるのが一般的だが、俺好みの孤児院仕様とする。

 分量の塩を加えてまとまってきたら、あらかじめ用意していた木型に素早く流し込む。

 ただの四角形なのだが、孤児院仕様はもう少ししゃれていた。


「こんなモンだな。一日おけば使えるか」


 大量に作って教会のバザーなどで売ったりもする。

 子供の笑顔をデザインした印を押して、孤児院みなしご印などと呼ばれ評判なのだ。


  ◆


「これがなんで、こんなによく売れるのかわからないのよねえ……」


 金髪の女騎士本業、本日石鹸作業手伝いが孤児院のデッキに並べられている石鹸を見ながら言う。


「売れる石鹸は、あちこちマネして同じような物を作り始める。だから競争になるんだ。ウチ孤児院なんて頑張っても作れる量はたかがしれているからなあ。スキマ好みの種類なら、作った量は全部売れるさ。安いしね」

「知り合いで使っている人なんていないわあ」

「そりゃ、女湯の事情さ」

「もしかして覗いてるの?」

「男湯の反対と、推察したんだよ」

「ハルトって商売のセンスもあるわね」

「まあね。独立して、客も依頼も自分で探さないといけないしさ。錬金術は商売なんだよ」


  ◆


 出来上がった。石鹸形をバルコニーの上に並べて日陰で乾燥させる。

 ちまたでは花のエキスなど香りをつけた石鹸が人気だが、そんなものは邪道だ。匂わない石鹸こそが最高なのだよ。

 体をこするヘチマも椅子もあるし、風呂も充実してきたな。



 それにしても、今朝の罠円陣もほとんど効果を発揮していなかった。

 これは絶対に先手を打たければいけない案件だ。魔物の反応は確かに増えてきている。

 罠を強化し、数も増やさなければならないだろう。

 まとめて駆除しなければ相手は増える一方なのだ。


「俺の使っている魔力の嗅いで集まって来てやがるぜ」


 商売抜きで戦いのことも考えるかね。

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