姪っ子リリア、蘇る記憶

 いきなり壁ぶち破るとはなんて行儀の悪い魔法使いだ。

 彼女が何者か知らんがここで揉めては面倒だ、まずは穏便に……。


「あのぉ、お嬢さん元気がいいですね。 そんなにはしゃいでどうされました?」


 彼女はジーっと俺を見定めるように見つめる。 しばしの沈黙、頼むから何か言ってくれ。


「あなた、もしかしてダンジョン商人さん?」


「え? あぁそうだが、もしかして君もなにか掘り出しもどわっ……」


 いきなり肩を掴まれた。 なんだなんだ? 壁ぶち破るわ掴みかかるわなんなんだこの娘は……。

 怖い通り越して不気味さを感じるも彼女は嬉々とした顔つきで叫んだ。


「やっぱりハンスおじさんだ。 やっと、やっと見つけたぁっ!」


「はい?」


 おじさん? 俺にそんな間柄の子いたっけ。 長年のダンジョン生活で既に記憶も遥か彼方だ。


「アタシよアタシ。 鍛冶職人ルシオの娘のリリアよ」


 思い出した。 冒険者の訓練時期のころルシオんとこで剣のメンテしに行く旅「一緒に冒険行くっ」ってせがむ姪っ子がいたっけ。


「リリアちゃん、綺麗になったなぁ。 ところで君みたいな娘がこんな危険な階層に単独で来るなんてどうした?」


「決まってるでしょ? おじさんを連れ戻しに来たのっ」


「お、俺を?」


「そのために来たんだもの。 さぁ、帰りましょ。 こんな所にもう用はないわ」


 聞けばあれからしばらくして俺は生死不明、実質死亡扱いとなってたみたいなんだが、この娘リリアだけは俺の生存を信じて爆炎魔法を磨き続けてたらしい。

 そして近年俺のダンジョン商人としての名が地上まで広まり、ハンスという名前が聞こえたことにより俺の無事を確信したってわけだ。


「ま、待ってくれリリアちゃん。 俺今この階から上がることも降りることもできないんだ」


「どういうこと? なにか呪いでもかけられてるの?」


 こんな間の抜けたことを言ったら怒られるというより呆れられるだろう。

 けど、命に関わることだから隠しとくわけにもいかない。


「実は俺、この階以外ではレベルが1なんだよねぇ」


「え、ウソでしょ?」


 リリアちゃんがまるでヘビみたいにギョッとした眼で俺を見る。

 この階にどうやってそんな状態で来たのか困惑してるんだろうが早く事実を飲み込んでほしくて俺はきっぱりと言ってみせた。


「マジだ」

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