1章 影の巣くう遺跡 ~1. 考古学研究所アジール支部所属、ナイアス・アキツィーズ(5)

「……そうだったら、困っちゃうかな……」

「ぬー、フレアちゃんは困らないし、おまえもつらい思いしなくて済むから、みんなで帰ろー」

「え……あっ、いや、それは……」


 ナイアスが、虚をつかれたように動揺する。

 そんなナイアスを無視して、フレアは頭にかぶった、ぬい針や綿の刺さった、笠型の黒いピンクッションを持ち上げながら、


「オウ、磨弧マコー。アイツラ、食ワレ死ンダカー? モウ帰ロー。フレアチャン、オ洋服ヅクリノ続キシタイー」

「いや。いま、イフキ、駆けあがってる」


 ナイアスの横の暗がりから、フレアをいさめる声が。

 まるで、夜闇がとろりとこぼれるような、落ちついた低音ボイス。

 その返答に、フレアはおもいっくそ鼻にしわを寄せて、


「ぬぇえええええええ!? シブトイナー、ゾンビチャウカー?」

「勝手に殺すでねの……」

「よかった……まだ、とりかれてはいないんだ……」


 ナイアスが、ほっと胸をなでおろす。磨弧と呼ばれた男は、暗がりの中からそれをふり返った。

 フードをかぶっているのか、全貌ぜんぼうも、気配さえも、ほぼ完全に闇に紛れている。

 するどい金色の瞳をいちどまばたかせて、磨弧はしずかに言う。


「……入口、閉めたほうがいんでねの? この水、外に出たら、教導会きょうどうかいがうっせんだろ」

「あ、うん……でも……」


 ナイアスの言葉を、虎太郎コタロウが「もぉ――っ!!」と声を荒げてさえぎり、


「そーだけどっ! そーしたら、あんたたちも危ないって、おいらさっきから言ってんの! おわかり!?」

「いや、まえからそういう仕事だろ」

「オウ、ソレナー」

「大丈夫だよぉ♡ フレアは、お兄ちゃんが守ってあげるからぁ♡」

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