常世のシャッテンシュピール ~自己否定王子とうそつき魔法少女~【前編】

KaTholi(カトリ)

1章 影の巣くう遺跡 ~1. 考古学研究所アジール支部所属、ナイアス・アキツィーズ(1)


1. 考古学研究所アジール支部所属、ナイアス・アキツィーズ


「そんな……もう、シャドウに遭遇してしまったなんて……!」

 

 入り口の岩戸を開いたとたん、反響した複数人のさけび声が、ナイアスの耳を打った。


 背後からさした月光が、闇に閉ざされた遺跡のなかを青く照らす。

 だが、そのうす青の光の帯があらわにしたものは、床にたぐまる闇の底からわずかにのぞく敷石のみ。

 壁も天井も、如法暗夜にょほうあんや漆黒しっこくに閉ざされている。


 遺跡の構造は、どの地域でも同じだ。

 入り口の広間は、無人。となると……。

 ナイアスの胸にあせりがつのる。


(入り口までさけび声は届いたから……救助要請のあった西の調査隊がいるのは、たぶん、地下への通路、イフキかな……そのさきのサスラまでは、行ってないといいけれど……)


 アキツィーズ考古学研究所、アジール支部所属、ナイアス・アキツィーズ研究員。ことしで19歳。

 清らなかんばせが、うれいをおびてくもる。


 花びらを思わせる、繊細せんさいな白い肌。その表面に、長いまつ毛が影を落とす。

 つややかな青髪。深い海の底のようなブルーアイには、聡明なかがやき。

 身長は、180センチをゆうに超す。だが、その背の高さからは、威圧感よりも、たおやかさと華奢きゃしゃさのほうが目立つ。

 腰にさげた細身のレイピアもあまりに優美で、武器であることを忘れてしまいそう。

 そのレイピアのつかがしらでは、清泉のしずくを凍らせたようなうす青の星が、ほのかにかがやいている。


 清流のなかにしか生きられない、水中花のような印象の青年だった。


 だが、レイピアの反対側にさげた、分厚い本の、豪奢ごうしゃで威圧的な装丁はすこし浮いている。

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