第6章 アカシックな冒険 3

 モリヤのしずくを抱えて、私達三人は十七番カタパルトからライラック号に乗り込んだ。

 テスト飛行の時は、見送りはリンドウだけだったが、今日は本番と言う事で、エルドラルド艦長とリルジーナも見送りに来ていた。 

 ハローズは船に乗り込む前に、リルジーナから「ご健闘をお祈りします」と言われたので、明らかに張り切っていた。

 ハローズ、最初から余り入れ込むと、途中で息切れするよ。

 

「ライラック号は、流石は亜空間探査機だね。 エネルギータンクのホールド可能数が半端じゃ無いよ。 昨日、メカニックに指示して超高濃度のエネルギーを満タンにして置いたからね」

 マヤにしては珍しく、ライラック号のスペックを褒めた。

「有難うございます。 とても助かります、マヤ様」

 マヤには頭が上がらないハローズだが、この言葉は本心みたいだった。 

「そうは言ってもエネルーギーロスは避けないとね」

「マヤ様どうでしょう? カイパーベルトまでは超高速飛行で行って、そこからショートジャンプでワームホールまで行けば、エネルギーの消費量は少なくて済むと思いますが」

「そだね~。 時間は短縮されるから嬉しいけど、ハローズが言っているのはケンタウルス座のワームホールの事だよね?」

「ええ、そうです」

「本当は、白鳥座のワームホール経由が王道なんだけど、燃料の事を考えると、しゃあ無いか? ワームホールの通過自体は飛行技術は求められないけど、幾ら裂け目からの侵入と言っても次元を超える為には莫大なエネルギーを消費するからね」

 マヤは、ハローズの提案を承諾した。


「ハローズ、そのルートで行くべぇ。べぇ、べぇ、べぇ、べぇ~と~べん!」

「???」

 ハローズの頭上に、沢山のハテナマークが飛び交った。

「ケンタウルス座のワームホール経由で、亜次元にレッツらGO!GO、GO、GO、ヒロミGO!」

 ヒロミGOを知っていると言う事は、エンサイクロペディアジャポニカのバージョンには問題が無さそうだけど、壊れつつ有るのはマヤの日本語転換ソフトの方だ。

 ポイントビューウィックに戻ったら、一刻も早く最新バージョンにアップデートをする様に、リンドウにお願いしよう。

 それにしても、アカシックレコードは亜次元に存在していると私は聞いていた。

 どうか亜次元が、怖い所では有りません様に! 


 前回は通常の高速飛行だったので、カイパーベルトまでまで9時間30分を要したけれど、今回は超高速飛行なので、僅か45分で到着した。

 超高速飛行って、光よりも早いのかな?

 その流れ方は圧倒的に激しかったものの、距離が近い星々が流星の様に見えるのは前回と同じだったから、流石に光速よりは遅いのだろう。

 光速を超える為には、ワープしか方法が無いのよね、きっと。

 つい最近まで、何の変哲もないOLだった私が、今は光速やワープの事を考えているなんて、八木ちんに話したら信じて貰えるかな?


 ワープで思い出したのだが、リンドウの話では味方の主力艦隊は食料や資材等を運搬する輸送宇宙船を数多く帯同させていて、そうした宇宙船はワープ機能を持っていないそうなのだ。

 その為、途中で幾つもの惑星に立ち寄るので、艦隊全体の移動速度が遅く成るとの事だ。

 それだったら、アンチャラプレーンが開く日は、おおよその見当は付いていた筈だから、ちゃんと事前に計算して早めに戻って来いよな!

 さっさと主力部隊が到着していれば、私もこんな思いをしなくて済んだのに!

 リンドウも言っていたけど、名前がガーリックだかベーリックだかの主力艦隊元帥は、間違い無くアホだろう。

 若しも、決戦の時に遅れでもして見ろ、アホには付ける薬が無いらしいから、代わりにお前をトースターで真っ黒焦げのガーリックトーストにしてやるからな!!! 

 

 私達がカイパーベルトに到着して低速飛行に移行した時、私が座っている後部座席の眼下に「屋根瓦」に似た形の琥珀色に光る小惑星が見えた。

 球形の星は「天から選ばれた星」で、かつて生命を育んだ星か、現在育んでいる星か、或いはこれから育む予定が有る星か、その何れかだと私はリンドウから教えて貰っていた。

 そして、それが微生物で有っても、生命を育んでいる星には必ず地母女神が守護しているのだそうだ。

 若し、私が本物のユウカ様だったとしたら、私のお仲間は皆、頑張っているんだわ。

 この琥珀色の小惑星も、何時いつの日か球体に形を変えれたら良いね。

 

 私達はその後、ショートジャンプを経て、ケンタウルス座のワームホールに近い宙域に差し掛かっていた。

 ハローズの話では、ワームホールは「リンゴの虫食い穴」から命名されたらしかったが、幾つかのタイブが有るとの事だった。

 亜次元と繋がるワームホールは、寸胴なトンネルの形状で、飛行自体は極めて楽なのだそうだ。 

 そして亜次元と三次元物理空間との境界は、通常の次元空間を分離する絶対的な強固さを持つ膜とは異なり、薄くてあちこちに裂け目が有るので、そこから侵入が出来るらしかった。

 但し、マヤが言っていた通り、それでも次元を突き抜けるには莫大なエネルギーを消費するらしい。

「亜空間って、中二階と言うか、ロフトみたいな空間なのかな?」

「ユウカ様、自分はロフトと言う物を知りませんが、誰でも気軽に登れる中二階と言う例えは的を得ていると思います。 ですがやはり階段は有るので、其れ成りに足腰は使うのです」

 ハローズの飛行は簡単だと言う答えで、亜次元への侵入に関してだけだが、私の不安はほぼ解消された。

「それよかさぁ、ウチら妖精族にも詳しい理屈は分から無いんだけど、アカシックレコードは全ての次元の亜空間に同時に存在するんだよ」

「えっ? アカシックレコードってひとつじゃないの?」


「そうよ。 物理次元の数だけ亜次元は有るからねぇ。 今の輪廻転生世界は十二小次元プラスワンだけどね」

 私の今回のミッションは記憶を取り戻す事なので、今はそれに全力集中しなければ成らない。

 故に、私に理解出来ない話には耳を塞ぐべきなのだ。

 私は両耳を塞いだ。

「兎に角、アンタの三次元での記憶は、今から行くアカシックレコードに全て記録されているから心配はいらないけどね。 ちょっと、ユウカ、聞いてる?」

「へい、聞いてますけど」

「それから、ウチらがアカシックレコードを捜す必要は無いのさ。 あちらの方から勝手に姿を表すからね」

「そうなんですか?」

 ハローズが大声で、マヤに訊き返した。

 ハローズもその事は知らなかった様で、亜次元でアカシックレコードを見付けるまでがパイロットとして腕の見せ所だと考えていたのに、相手が見付けて呉れると聞いて拍子抜けをしたみたいだ。


「自分もアカデミーで教官から、アカシックレコードは如何いかなる亜空間にもあまねく存在出来る自在性を持っていると教わりましたが、それは本当だったんですね!」

「まっ、アカシックレコードが天が創造した偉大な創造物で有る事だけは間違いが無いね! それじゃ早速、行きますばい。 ばい、ばい、ばい、ばいきんまん!」

 マヤの日本語転換ソフトは、最早もはや、末期を迎えているのか?

「あっ! マヤ様、あそこにワームホールの入り口が見えます!」

 ハローズが指差した場所に、ぽっかりと漆黒の大きな口が不気味な感じで開いていた。

「ユウカ様、見掛けは怖いですが、入ってしまえば直ぐに亜次元の薄い膜に到達しますので。 それではマヤ様、ナビゲーションをお願いします」

「OK、よっしゃ、ウチに全て任せトカゲ!」

「マヤ様、宜しくお願いシマウマ!」

 マヤもハローズもヤル気満々だった。

 私も頑張らなくては!

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