第4章 不思議な訓練  9

 「皆さんは確かベテルギウス守備艦隊で、戦闘艦は二千隻だと聞いているので、二千隻対一万隻の戦いに成るのですが?」

「ええ、そうです。 それが何か?」

 エルドラルドは、私の質問が不思議そうな表情に成った。

「そうですって、それだと我が軍は圧倒的に不利じゃないですか?」

「数の上では確かにそうです。 ですが、我々にはユウカ様がいらっしゃいます」

「いらっしゃいますって……言ったって」

「ユウカ様が能力を発揮されれば、六千隻はおろか、敵が主力艦隊と合流して三万隻

に成っても簡単には負けないと考えております」

 エルドラルドは、まるで貴方は私の父親だったのか?と思う程の、優しい笑顔で私を見詰めた。

「若し、私が能力を発揮する事が出来なければ?」

「その時は我々は全滅です。ガルバラス中将閣下以下、我が艦隊の全員が既にその覚悟は出来ております」

「アッサー!!!」


 私は急に眼の前が真っ暗に成った。

 何よそれ!狂っているわ、この人達は。きっと狂っている!

 明らかな人違いの人物に、その生命いのちを賭けるなんて!

 現段階では、私が偽物だと判明していないので、その話を持ち出せばややこしく成るから、現実的な質問をしようと私は決めた。

 「ベテルギウス守備艦隊の保有戦闘艦が二千隻だと聞いた時から、とても不思議に思っていたのですが、皆さんは私が驚く程のハイテクノロジーをお持ちですよね? だったら、その技術を使えば戦闘艦の一万や二万隻は簡単に建造出来るんじゃないんですか?」

「ああ、成程。 その事ですか?」

 エルドラルド、リルジーナ、そしてリンドウの3人は、お互いに顔を見合わせて嬉しそうな微笑を交わした。

「地球にいらしたユウカ様なら、そうお考えに成られるのは当然ですね」

 エルドラルドの顔付きは、更にその優しさを増したみたいだった。


「その件は、僕がユウカ様にご説明を致しましょう」

 リンドウが五、六歩進み出て、私の眼の前にやって来た。

「地球の時間軸では、約二万三千年前に大銀河憲章が改訂されまして、新たなバリアとシールドの製造が、輪廻転生世界に於ける全ての次元で禁止されたのです」

「???」

「大銀河憲章が改訂された目的は、この天の川銀河から無用な戦争を抑止する事でした。 そしてその改訂にって、確かに破壊戦争や破壊紛争に至るケースが激減したのです」

 リンドウが私でも理解出来る様に、極力、易しく説明して呉れている雰囲気は伝わって来たが、私は中ではだ合点が行っていなかった。

「ですから、現在、使用が可能なバリアとシールドは、約二万三千年より以前に製造された物だけなのです。 勿論、バリアとシールドの性能は日進月歩で高度化していますが、その数自体は増えていません」


「リンドウ、私が分からないのは、何故、新たなバリアとシールドの製造が禁止されたら、戦争が減るのか?なんだけど・・・」

「それは、改訂前と後では、戦闘のスタイルが完全に変わったからなのです」

「???」

「改訂前は、兎に角、敵艦や敵機を破壊する事が重要な作戦でしたが、改訂後は如何いかにして敵艦や敵機を捕獲するのかにミッションが変わったのです。 戦場に出撃している戦闘艦や戦闘艇は全てバリアとシールドを装着していますから、それを捕獲すれば自軍の新しく建造した戦闘艦や戦闘艇に装着する事が出来るからです」

「成程ね。それによって自軍の戦力が増大し、敵の戦力は低下するって言う事ね」

「ユウカ様の仰る通りです」

 その点は、何となくだが私にも少しは理解が出来た。


「そして、これがユウカ様のご疑問に対する直接的な答えに成りますが、ユウカ様がおっしゃる様に、現代の技術を以てすれば戦闘艦を1万隻や2万隻建を建造する事は決して難しくは有りません。 ですが、バリアとシールドを装着していない戦闘艦や戦闘艇は、紙で作られた玩具おもちゃと同じなのです」

「紙で作られた玩具と同じ?」

「ええ、敵の攻撃で一瞬にして、その1万隻、2万隻は破壊されてしまうでしょう。 相手もバリアとシールドは装着していない戦闘艦なんて全く興味が有りませんから、遠慮無く破壊するからです」

「戦闘艦の数が少ないのは、そう言う理由だったのね」

「仮に捕獲が難しくて、若し作戦を敵艦や敵機の破壊に変更した場合、敵も味方艦や味方機の破壊を狙って来ます。 そう成ると、破壊された数だけ貴重なバリアとシールドがこの世から消滅する事に成って、それは双方の軍に取ってデメリットが大き過ぎるのです。 そうした事情が天の川銀河に於いて、破壊戦争や破壊紛争を激減させた理由なのです」

「うん、良く分かったわ」

 これらリンドウの説明で、私の疑問は払拭された。


「ところでユウカ様、この事はユウカ様がサラフィーリア様から受け継がれる能力と密接な関連が有りますので、その事についてわたくしの方から、少しばかりご説明を申し上げますね」

 リンドウが、五、六歩後ろに下がって、代わりに今度はリルジーナが五、六歩前に進み出た。

「わたくしには、ユウカ様がサラフィーリア様から受け継がれる能力の具体的な内容は知らされておりません。 但し、サラフィーリア様から受けたテレパシーでは、オリオン大戦時代に女神宗家の大女神が自然覚醒に拠って得た能力で有る事は伝えられました」

「女神宗家の大女神が自然覚醒した?」

 私は思わず、リルジーナにそう訊き返した。

「そうです。オリオン大戦は後期に入って大銀河憲章が誕生する前までは、惑星や巨大衛星を丸ごと破壊する事が日常茶飯事な程、オリオン宙域は完全な無法地帯に化していました。 そうした悲惨で凄絶な戦争を抑止したのが、その女神宗家の能力だったと伝えられています」

「う~ん、そんな恐ろしい戦争を抑止したなんて」

「その結果、ライトサイドとダークサイド双方の合意の元、天の川銀河連盟が結成され、大銀河憲章が制定されました。 その憲章に両サイドの戦闘に関する大まかなルールが規定されたのです」

 まあ、それは何にしても良かったけれど、そんな大それた能力を私が受け継ぐと、この人達は本気で考えていそうで、正直、私は怖く成った。

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