第4章 不思議な訓練  3

 やがて、リンドウがワゴンに料理と飲み物を乗せて、私の元にやって来た。

「待ってました!」

 私は心の中でそう叫んだ。

「こちらがチーフシェフが創作した、ユウカ様の味覚に最も合う料理です」

「そうなの? それは楽しみ!」

 私が席に座ると、テーブルの上に置かれていた料理を保温する銀製の被せ物を取り除いた。

「こ、これは! ラーメンじゃん!」

「意外にシンプルな料理で僕も驚いたのですが・・・これが噂のラーメンですか?」


 そこには見た目も香りも、紛れも無い「細麺の濃厚豚骨のうこうとんこつラーメン」の雄姿が有った。

 丁度、私はラーメンが食べたかったので、リンドウの言葉には何も返さず、黙ってそのラーメンに箸を付けた。

「どひゃーっ!!! 何? この旨さは?」

 それは、私がこれまでに食べた「豚骨ラーメン」とは、完全に次元が異なる旨さだった。

 濃厚だが、奥深いハーモーニーを食する者に感じさせる奇跡の様なスープに、信じられない滑らかな食感を持つ、美味過うますぎるストレートの細麺が程良く馴染なじんでいる。

 私は硬麺派だが、このスープにはこの中硬ので具合がピッタリだ。

 圧巻は、とろとろしゅわしゅわの超肉厚のチャーシューだった。

 更に、具材として入っているきくらげは、極上のしょうゆ、みりん、ラー油で炒めて細切りにされている。

 風味が際立つ、格別の白の煎り胡麻が少量、振り掛けられている。

 それに細かく刻んだ 小葱も少量、入っている。

 私は瞬く間にそれを完食した。

 余りに早く食べた為に、私は三度程、ハンカチで自分の鼻汁を拭かなければ成らなかった。


「ブファ~! 参った、参った! 参りました。 チーフシェフには脱帽よ。 美味おいし過ぎたと彼に伝えて!」

「了解だけど、チーフシェフはアンドロイドなんだけどね。 でも、きっと喜ぶと思います」

 チーフシェフは、アンドロイドなんだ。

 確かにアンドロイドだから、こんな料理も作れるのね。

 でも、若しかしたらリンドウも、アンドロイドには心や感情が備わっていると信じているのかもね?

 それにしても、私のド・ストライクの食べ物が、「豚骨ラーメン」だったとは!

 私の味覚は、やはり超庶民派だった!

 そう自分自身を慰めては見たものの、やはり残念な気持ちは残った。

 昼食を済ますと、リンドウから私はトレーニングルームに案内された。


何時いつかも言ったと思うけど、これは肉体に負荷をかけるようなトレーニングでは無いから、心配はしなくても良いですよ」

「そうだとは聞いていたけど、自慢じゃ無いが社会人に成って六年、昼間は椅子に座っての仕事だし、スポーツのスの字もして来なかったから体力には全く自信が無いの」

「大丈夫! 僕に任せて」

 リンドウはそう言うと、私をトレーニングルームの中央に有るブースの椅子に座らせた。

 「ひとつは、先ずその椅子に座って或る光線を受けて貰って、その後は横たわっているだけで良いので楽だと思います。 若しかしたら気持ちが良いかも知れない」

「気持ちが良いトレーニングなんて有るの?」

「ははは、有るかもです。 もうひとつは、ユウカ様がサラフィーリア様と通信が可能に成る為の能力を高める訓練で、こちらの方がトーレーングらしいかな。 でも、そちらの方はもう少し先の事に成るけど」

 体力には全く自信が無い私だったが、「サラフィーリア」との通信の方は、幾ら訓練を重ねても百パーセントの確率で、それが叶わないと言う自信だけは、私の中に満ち溢れていた。

 そしてそれこそが、私が人違いで有る事のまぎれも無いあかし

「じゃあリンドウ、早速、初めて頂戴」

「オッケー! では光線を照射しますので、全身の力を抜いてリラックスして下さい」

 その光線はレントゲン撮影のたぐいだったのか、拍子抜けする位、アッと言う間に終了した。


「はい、次はこちらの方に入って下さい」

 リンドウは、日焼けサロンのサンタンマシーンのような形状をした透明なカプセルを私に指差した。

 ここの浴室に置かれていた機械に少しは似ている感じがしたけど、このサンタンマシーンの方が遥かに大型だった。

「この装置は、アルクトゥルスのセルペンス星系で開発された最新型のコクーンです!」

 リンドウが装置の説明を行った。

「コクーンって言葉は、この前も言っていたよね?」

「コクーンはまゆと言う意味ですが、これは生命体を細胞レベルから癒したり活性化させる装置だと思って下さい」

 ふ~ん、私はこれからこの装置で癒されたり活性化されたりするのか?

「実はこの装置こそ、メンテナンスを終えたばかりの、そしてユウカ様がお待ち兼ねの美容整体コクーンなのです」

「おお、これが美容整体コクーン!」

 この空母には高度なテクノロジーが揃っているから、肌をすべすべにするだけでは無く、身体からだの隅々までマッサージをして呉れる機械かも知れない。

 八木沢のマンションでの竜巻事件を聞いて以来、これまで色々な事が重なったので、私、身体からだの全体が凄く凝ってるのよね。

 コクーンちゃん、マッサージを宜しくね。

 あっ、最初は優しくしてね。後は段々と強くやっても良いからね。

 私は、最新型コクーンから、マッサージを受ける気満々に成っていた。

「僕は自室に戻っていますのでUIの指示に従って下さい。 終了したらこのUIの方から連絡が入りますので、その時に冷たい飲み物でも持参しますね」

 リンドウはそれだけ言うと、トレーニングルームから出て行った。


 私がコクーンに近付くと、コクーンが私に話し掛けて来た。

「ユウカ様ですね。 はじめまして! 自分は、セルペンス星系の惑星ザルバルカント星で生産されました最新型コクーン、型式PGRX7・・・」 

「あっ、自己紹介は良いのよ! どうせ聞いても覚えられないから。 それより私はどうすれば良いの?」

「ユウカ様、今から脱衣籠を出しますので、その中に衣服を脱いで入れて下さい」

 浴室の時の様に、自動的に脱衣籠がフロアに出現した。

 UIを相手に恥ずかしがっても仕方が無いので、あたしが全裸に成ろうとした時、

「ユウカ様、下着はお付けに成られたままで結構です」

 そうコクーンは言うと、その大型サンタンマシーンの上部蓋を全開させた。

「あ、そうなの? 分かったわ。だけど整体美容コクーンって言うからには、マッサージはして呉れるよね」

 私は一番気に成っていた質問を、そのUIに発した。

「マッサージとは、筋肉を弛緩しかんさせたり、リンパのコリなどを取り除く、微妙な手技の事でしょうか?」

「微妙な手技? おお、それそれ!」

「一連の手技は、トリ-トメントの後半部にプログラミングされております」

 ひひひ、やっぱりマッサージサービスは付いていたのね。

 私はUIの指示に従って、そのサンタンマシーン風のコクーンに仰向けで横たわった。

「コードネーム、マイクロテイストノースダイアレクトビアンカ、 通称マイノビアの世界にようこそ!」

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