第164話 事前会議
俺との同室を譲るというオステリアとリリス。
「そうじゃの。イハネは初夜を迎えておらんからのぅ。これは軽率じゃった、今夜は譲るわい。」
「あ、あの……。その……。」
イハネは顔を真っ赤にして、何も言えなくなってしまった。先ほどまで「全員小部屋で」と言う論理は破綻しているようだ。
「で、でも、まだ結婚前ですし……でもお二人が……。」と、イハネが言いかけると、
「母上。さすがに今日はマズいと思います。この地は聖龍の王国。謁見するまでは……。」
「え……。」
というわけで、全員一人一室という形になった。
そのときのイハネは、ちょっと残念そうな顔をしていたが、誰も気が付かなかった。
宿屋に入ると、ほとんどホテルって感じだった。大理石の床に白い天井。これは地球に居たときのシティホテル並みのクオリティだ。
俺達は一泊ゆっくり体を休めた。
しかし、メンバーはうっかり忘れていた。
ヤマトの肩に乗っている子猫の姿をしているサキュバスの存在に……。
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朝になり、俺達は宿屋の食堂に向かう。
俺の肩に乗っている子猫は、やけに毛並みがツヤツヤしていた。
俺もいろいろな意味でスッキリした顔をしている。
(いや……昨夜のサキルイスは凄かった。)
俺は朝食を楽しみにしていた。
(夕飯もそうだったけど、龍族のご飯ってどんなかと思っていたら、ほとんどが肉料理だった。俺は油っこいのは大好きだからいいけど、イハネとルシナは、ちょっと苦手だったみたいだ。)
聞けば龍族は、一日に消費するカロリーが1~数万万カロリーが基本らしくて、もの凄く食べる種族みたいだ。
オステリアとリリス?
あの二人は基本的に肉食だ。めちゃくちゃ食べていた。あの二人はモデル並みに細いが、食べたものはいつも何処に消えているのだろう……。
俺達は部屋に戻る前に、その食堂で軽く打合せを行った。貸し切りなので、どこでも会議し放題である。
オステリアが、相変わらず俺の右腕に抱き着きながら疑問を口にした。
「ダーリン、今回龍王国ドリューンまで来たけど。これから聖龍女王を説得できるの?」
「はい。ヤマト様。私もそこが気になっています。」と、イハネ。
「うん。俺どう説得したものか………。悩んでいるんだ。」
すると、ルシナが食後に出てきた紅茶を飲みながら言った。
「それならさ、聖龍様と結婚式をしちゃったら?」
「「え!?」」と、皆がルシナを見つめる。
すると、ルシナがアワアワして
「い、いやね?聖龍様は、結婚式の順番を気にしているわけでしょ?なら先にやってしまえばって……。」
「さすがにそれは……。」
「大国ともなれば、結婚式の準備に半年はかかります。ルシナさん。」
皆が却下しようとしたとき、「いや」と……リリスから声がかかった。
俺はリリスに視線を移す。リリスは手元にあった紅茶のカップをテーブルに置いた。
「いや、ルシナの案いけるかも知れんぞ。」
「そ、そうですか?リリスさん。」
「うむ、イハネ。確かに常識的には各国に招待状を出して、結婚式をする方法じゃろうが。あの聖龍じゃ、ヤマトが自分から王国を訪ねてくれたことで、これ幸いに決行する可能性が高い。」
俺は驚いた。
「え?何……。俺って、旅に来たついでに結婚しちゃうの?」
「そうなるかもな……。これは大変なことじゃぞ。オヌシの動き次第でエルフ国が滅亡するか、繁栄するかがかかっておるのじゃ。いろいろ覚悟しておけ。」
結婚式で、国の命運がかかるって一体……。と俺は思ったが言わなかった。あの預言のプレートがある以上。俺とイハネが結婚しなければ、エルフ国は滅亡するからだ。
「じゃあ、ダーリンのカードとしては、このドリューン王国で3ケ月以内に結婚する!ってことね。」
「そうなるのぅ。いいな?イハネ?」
リリスがイハネの顔色を伺う。
「もちろんです。さすがリリスさんですわ。それも一手ですわ。」
すると、リーランはイハネの「一手」に気を取られたみたいだ。
「イハネは、他に何か手を考えていたの?」
「はい。リーランさん。そもそも、エルフ側が計画していたのは、今回の結婚式は龍人族の女王であったリリスさんとの合同結婚式という形態でした。」
「わ、私もいるわよ。」
オステリアが不満そうに言うと、イハネは笑った。
「もちろんですわ。女神様が本当は主軸。だって神様ですもの。でも、それは世界に発表するわけにはいかないので、認知性のあるリリスさんを前に出しているのです。」
「判っているならいいけど。」
「はい、オステリアさん。もちろんですよ。」
「ふふふ。イハネちゃんは良い子ねぇ。」
ちょっと険悪になりそうだったがイハネは巧みにかわしていく。本当に万能少女だ。
「話を戻しましょう。すでに各国の重要人物達には通達を出しています。あとは場所を変えるだけです。」
俺はピンときた。
「そ、そうか。合同結婚式を龍王国でやってしまえばいいのか。それも聖龍を加えて。」
「正解ですわ、ヤマト様。そうすれば、条件的には聖龍様も納得しますし、エルフ王国も大義名分が保たれますわ。」
「つまり……。」
皆の視線が、リリスに集まる。
「ワシが、聖龍を説得するキーマンという訳じゃな。」
「はい、もちろん。そこにはヤマト様の説得が一番ですが……。」
ルシナは感心した。
「す、すごいよ。イハネ王女様の言うとおりに実現したら、全部解決しちゃう。」
すると、イハネ王女はルシナに視線を向けて微笑んだ。
「ありがとう、ルシナ。今は「王女」でもいいですが、あなたもヤマト様と結婚したら、対等の関係。そのときは「ルシナ」と、呼びつけで構いませんからね?」
「えぇ!?ボクがイハネ王女を呼びつけに!?」
「そうですよ。」
「ボクなんかが……。」
「何を言っているんです、ルシナ。あなたのウールー家は、元を辿れば公爵家の流れ。」
「そうだけど……。」
俺は、その発言に驚いた。
「えぇ!?ルシナって、王侯貴族の血か何か引いているの?」
侯爵家は、王家から派生することが多い。つまり、ルシナはもともとは王族の流れってことかも知れない。
「う、うん。大分昔の話だし。ご先祖様レベルのことだよ?」
「そ、そうだったんだ。」
イハネが口添えをする。
「ルシナの治める。ウールー領は、エルフ国内でもかなり大きいレアメタル採掘権と、広大な森林や漁場を持っているのです。このウールー領が、我が王族と親戚関係になれば、ブルーサファイア王家としては嬉しいことなのです。ヤマト様。」
驚愕の事実。
俺はかなり有力な子と婚約してしまっていたらしい。
俺が固まっていると……。
「もしかして、ヤマト様、知らなかったのですか?」
「う、うん。全然。」
すると、イハネは笑った。
「私はてっきり知っているものかと……。ヤマト様はそうですわね。そういう政略的なことは考えないかたですものね。」
オステリアが笑った。
「ダーリンは家柄とか、財力とか関係なしに女を選ぶからね!そこがダーリンの良いところよ!……で?今回の聖龍を説得する方法としては、その合同結婚式を落としどころにするの?」
(オステリア……女を選ぶって言うな……誤解を招くから。)
イハネは頷いた。そして申し訳なさそうに言った。
「それが一番現実的かと……。エルフ王国のことを考えれば、って論理ですけど。」
「どういうことだ?」
「龍族からすると、何故合同でやらねばならん!ってことになるかものぅ。」
「まぁ、そこはヤマトが説得すればいいんじゃない?母上もいるし、きっと聖龍さんなら納得してくれる気がするわ。」
「リーラン……そんな楽観的な。」
「大丈夫よ。ヤマト。聖龍さんは、今回の水晶城ガルクディンの救出も考慮するわ。」
「そうかなぁ……。」
その後、俺達は宿屋の前に待っていてくれたキーラスと馬車に乗り込み、護衛10名(護衛は要らないって言ったんだが、体裁上必要らしい)と共に、王都ドラガイアを目指すこととなった。
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