第135話 賠償

突然にディスられた俺。


俺はスキル『通信』で、リリス達に反応を伺う。


(ど、どう思う?)


皆からすぐに反応が返ってきた。


リリス

(こう言え、「このアバズレ。こっちから願い下げだぜ!」とな。)


(却下!リリス、口悪すぎ!)


オステリア

(ダーリン。こういうときはね?「これは興味深い。このブタ人間の言葉を話すのか。」って返すのが礼儀よ。)


(お前も口悪い!似た者同士だな!お前ら!)


リーラン

(ヤ、ヤマト。こういうときは大人の反応よ!冷静に!母上達の返しは最悪だから絶対だめ!)


(わ、わかった。)


さすがリーラン……。俺の心のオアシスだぜ。


とりあえず大人の対応をすることした。


「あの……、俺は何か失礼を働いたでしょうか?でしたら謝罪したいのですが……。」


「失礼も何も、あなたそこにいるのはあなたの妻じゃないの!?とんだ軽薄男ね!しかもヴィールムやルシナまで、手をつけているって言うし。最悪ね!アナタ!」


(うーん……否定できない。俺はこの数日で、何人ものお嫁さんを得ている。)


変に納得する俺。


「え、えーと。」


俺が何て返せばいいか迷っていると、宰相であるジョジールがさすがに動いた。


「エリーン様!ここにいるのは伝説の龍人族ですぞ!お言葉が過ぎます!」


(おぉ!ジョジール!疲れたサラリーマンのようなオーラだったが。やるときはやる男か!?がんばれ!)


すると、ジョジールを睨む王女エリーン。


「はぁ?あなた、私に説教するつもり?宰相の分際で。」


ちょっと怯むジョジール。顔はビビっている。


「よ、預言のことも念頭におかれますよう。」


「あなた。後でどうなるか判っているんでしょうね?」


「わ、私は……その……。」


完全に押されているジョジール。


(だ、ダメだ。こりゃ。)


「とにかく、こんな男は絶対いや!私はククルと一緒になるの!」


「…………。」


(沈黙しちゃったよ。ジョジール。)


俺とリリス達が顔を見合わせていると、ここで母であり女王でもあるレステールが怒鳴る。


「エリーン!!」


これはいけない。女王が直接謁見の間で怒鳴るなど、エルフの沽券にかかわる。


俺は助け船を出すことにした。


「レステール女王様。無理には……。」


「いや、待って欲しいヤマト殿。エリーンは良く分かっておらぬのだ。この縁談の重要性が……!」


いやいやいや、俺の心情も察して?俺はシルバーヘアーの第二王女様のほうが素敵だと思うし……。


リーランが口を挟まむ。


「……しかし、第一王女様の意思も大事だと思われます。」


「…………ふん。」


エリーンはチラリとリーランを見る。その目は、好意的ではないにしろ。俺に向けるような目では無かった。


「リーラン殿。そういう訳にもいかんのだ。」


「ふん!母上。この男、女みたいな顔をして気色悪いですわ!この縁談はイハネに譲ります!じゃあ、ご機嫌よう~。」


母の頑張りを無視するように、勝手に足を出口の方へ向けるエリーン。


(ま、まじかよ。中座しちゃうの?)


エリーン王女は、本当にツカツカと謁見の間を離れて行ってしまった。

シーン

何とも気まずい空気が流れる。


オステリアがひどく怒っている。


「な、何なの。あの態度……、あり得ないわ。」


「も、申し訳ない客人。エリーンは最近おかしいのだ。」


レステール女王、眉のあたりに手をおいて悩みこけている。考えるポーズ。エルフ女王レステール。


「母上……。」


イハネ王女様は母親が心配なのか、レステール王女様の肩に手を置いて横に膝をついている。この王女様は姉と違って、本当に性格が良さそうだ。


リリスが沈黙を破るように、レステール王女に声をかける。


「のう、エルフ女王よ。第二王女のイハネ殿と、ヤマトで話す時間を設けたほうが賢明じゃなかろうか?もはや選択肢が無いように思う。」


「待って欲しい。リリス殿。それでも構わぬのだが、一応は第一王女に話をつけさせる必要があるのだ。」


「……しかしのぅ。」


リリスは俺の顔色を伺う。


俺はリリスに同意の印に、コク!コク!と頷く。


はっきり言って、俺はイハネ王女といろいろ話してみたい。リリスに激しく同意だ。


「すまないが、もう一日欲しい。明日またこの謁見の間で会おう。それまでにエリーンを説得する。」


宰相ジョジールも、横でペコペコして愛想笑いを浮かべている。お前は何か喋れよ……。


(ど、どうしてそこまで俺に嫁がせたいの?困ったな……。)


俺が困惑していると、リーランがそっと耳打ちしてくれた。


(王族って色々大変なのよ。ここでエリーン王女を破談にさせるには、ちゃんとした理由が必要なのよ。面倒だけど付き合ってあげましょう?)


(そ、そうか、分かった。王族って大変なのね。)


どうやら、あんな王女様だけど、悪者にしないために色々大変なようだ。


イハネ王女は、立ち上がると俺のほうへ右手の指をクロスさせて胸のあたりにもっていった。そして深く頭を下げる。


エルフ流の謝罪の挨拶だ。


「ヤマト様、大変申し訳ございませんでした。わたくし……。お姉様も心配なので失礼させていただきますわ。ご許可いただけますでしょうか。」


そういうと、イハネ王女様は申し訳なさそうに謝る。


「い、いえ。まったく気にしておりません。許可も何もございません。」


「ふふふ。ヤマト様は本当に良いかたですね。では、ご機嫌よう。」


ドレススカートの裾をつまみながら、優雅に一礼をするとイハネ王女様は退出した。


話していて気持ちの良い人だ。姉とは大違いだ。言えないけど。


「姉とは大違いじゃの。」


「口に出すなよ……リリス。」

その日、レステール女王と宰相と俺達は、非常に大事な話をした。


「今回の決闘場での、アレの話だ。」


そういうと、女王は謁見の間の奥に設置されているもの宰相に引っ張ってこさせた。


小柄な宰相は、荷台車に乗せられたものを「よいしょ……よいしょ……。」と持ってくる。何だか大変そうだ。


乗せられているものは、何か大きな布で覆われていて何かは判別できない。


女王と俺達の間に、荷台車が到着すると。布が取り払われる。


バサ!


「「……!」」


そこには、決闘場で俺を撃ち抜いた。魔導兵器が鎮座していた。


「これは、対魔人用の魔力光線圧縮加速装置と言ってな。対魔人に使用するエルフ軍の最新兵器だ。」


「その割には、ヤマトに脳震盪起こさせるくらいの威力じゃったのぅ。」


「リリス……。言い過ぎだ。」


「ふん。」


リリスはそっぽを向いている。俺に対して行われた蛮行に怒っているのもあるのだろう。今日の彼女は、口が本当に悪い。


「いや、リリス殿の言うとおりだ。この不始末はエルフ王国にとって、最大の謝罪を持って償わせてもらう。宰相ジョジール。」


「は!」


宰相は一旦離席すると。両手の平に紫色のトレイを持って現れた。そのトレイの上には、封書が2通。小瓶が1つ。さらに金色に輝く鍵が乗っていた。


宰相ジョジールは、俺の前に立つとそれらを差し出した。


俺は受け取る前に、女王に声をかけた。


「これは……?」


「その封書のうち、1つはエルフ通貨を受け取れる証書が入っている。金額にして1兆エルフィン入っている。」


「い、一兆!?」


「お金で解決など、不躾にもほどがあるのだが……。ヤマト殿は先立つものが少ないと聞いてな。それが一番役に立つだろうと思って用意させてもらった。」


「い、いやいや!さすがに多すぎです。一兆って……。」


宰相ジョジールは首を振る。


「これは世界の王にもなる可能性があるヤマト様へ大してのエルフの気持ち。どうかお受け取りください。」


「えぇ……。」


俺がオステリアやリリス達に目を向けると、オステリアが口を開く。


「ダーリン。こういうものは素直に受け取るのが礼儀よ。これを断れば、エルフは謝罪を拒否されたとして、さらに賠償金を上乗せか違う謝罪を用意するでしょう。」


「そ、そうなのか。」


すると、リーランも頷く。


「殺人未遂だしね。これは受け取るべきよ。」


顔を見ると、リリスも同意しているようだ。


俺は受け取ることを決心した。


「判りました。謝罪を受け入れます。」


ホッとした表情のレステール女王。


「ありがとう。感謝するヤマト殿。」


「そ、それでもう一通の封書は?」


「それは、紹介状だ。」


「紹介状?」


「うむ。城下町に、気難しいドワーフ鍛冶職人がいる。それを持っていけば、最高の武具を作ってくれるだろう。もちろん、金が要るが、それはエルフ国で負担させていただく。」


「そ、それは助かります。ありがとうございます。」


「その鍛冶職人がいる店は、あとでジョジールから伝えさせる。」


「わかりました。」


「小瓶は?これは何かのポーションか何かでしょうか?」


「それは超強力な睡眠薬だ。もし二人の娘が拒否したら、それを使って欲しい。ヤリまくって良いぞ。許可する。」


「つ、使わないです!!」


俺はツッコミを入れる。しかし、女王の顔は真剣だ。


(ど、どこまで本気なんだ。この人。)


「はぁ……、そ、それで鍵がありますが?」


すると、レステール女王は鷹揚に頷く。


「その鍵は、私の寝室の鍵だ。いつでも夜這いに来るが良い。」


リリスとオステリアが叫ぶ。


「「行かさねーよ!?」」


「ヤマト殿?この美しい肉体を好き放題だぞ?」


「「お前、本当にエルフの女王様か!?」」


「…………。」


困ったような表情を浮かべる女王レステール。


(こ、困っているのはこっちだって。)


女王はコホン!と、わざとらしい咳払いをした。


「冗談はさておき……。」


「冗談じゃなかったでしょう……。女王様。」


「その兵器を使って暗殺を指示した者達のことだ……。ここからが本題になる。」

そして、女王からエルフ国において俺達の安全を保つための話がはじまった。


小瓶から、薬液が揮発しているのか甘い匂いがする。


(やはり冗談で、あれはただの甘い飲みものだったのか?)


俺が安心していると、


そのトレイを持っているジョジールが、


「う~ん。」


バタン……!


ジョジールが倒れてしまった。スヤスヤと眠っている宰相。


睡眠薬が鼻から入ったのだろう。


「ほ、本物!?」


どうやら、鍵と小瓶は冗談ではなかったようだ……。

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