5/12 みかんの花






 今日もあずくんは、赤い自転車に乗っておさんぽに出かけるよ。


 近所の空き地から、ふわりと甘い香りがした。

 「なんのにおいかな?」と、あずくんはキョロキョロ。

 甘い香りの正体は、ぽつんと植えられた木に、満開に咲いた白い花!

 ママに聞くと、「あれはみかんの花だよ」って教えてくれた。


 みかんの花は、この時期に満開になるんだって。

 ママの故郷は、みかんの産地。

 ママにとっては、なつかしい香りなんだね。





 みかんの畑を通り過ぎて、川のほうへ進んでいくと。

 あれ? さっきと同じ香りがする。

 またみかんの花が咲いてるのかな? と思って探してみるけど、みかんの木はどこにも見当たらない。


 お鼻をくんくん、香りのもとを追いかけると……

 見つけた! ブロック塀の向こうから、ひょっこり顔を出してる白い花!

 ……けど、みかんの花じゃない。

 色は同じだけど、形がちょっとちがうんだ。

 それに、みかんの花のつぼみは白いけど、こっちのお花はピンク色。


 ママが、「これはジャスミンのお花だよ」と教えてくれた。

 ハゴロモジャスミンっていう種類のお花なんだって。

 ママは、「ジャスミンはお茶になるんだよ」って言ってたけど、ハゴロモジャスミンはお茶にならないんだって。


 同じ香りでも別の花だったり、同じ花でもお茶になったりならなかったり。

 お花って、なんだかフクザツ。





 あまーい香りをかいでるうちに、なんだかお腹が減ってきた。


「帰ったらみかん食べていい?」

「だーめ。ごはんのあと」

「1個だけ!」

「じゃあ、1個だけね」


 ママとの交渉、成立!

 でも……


「1個って、1粒のことだからね!」

「わかっとーよ(ちぇっ、まるごと食べたかったのに)」


 あずくんの考えることは、ちゃーんとお見通しのママでした。







 「みかんの花」おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る