第16話 楽しみになさってくださいませ
ゴールデンウィーク初日。
世間では高速道路が見事なまでの大渋滞。 クラクションと車列が永遠に続くその喧騒を、上空から見下ろす存在があった。
黒いヘリ──。
氷室大学ヘリポートに、ゆっくりと降り立つ。 駆け寄ったのは、作業服の巨体男──津玖流である。
ヘリのドアが開いた瞬間、風を切って現れたのは――
悪役兄弟。
弟・吉昌は最上級のリゾートファッションとサングラスで全身をかため、マウントを取る気満々のスタイルだ。
そして兄・吉平は、黒のセパレート型ライダースーツに身を包み、不健康な色味のメイクと天へそびえる長髪で、相変わらずの“俺様”威圧感。
特大サイズの旅行ケースをいくつも津玖流に持たせ、二人は堂々と地面を踏みしめた。
──が、迎えに出ていたのは、たった一人。
紅子である。
真っ直ぐに立ち、十二単に赤のハイヒール、そして手にはおなじみの扇。 吉昌も負けじと、うん十万もする靴で第一歩を踏み出し、3桁もするブランドスーツを見せつけるように紅子の前に立った。
「ふん、田舎大学が滞在費を百万円も取るとはな……。まあいい、俺は優れた経営者。大型連休は率先してリフレッシュ休暇を取る男。この俺が滞在するのだ、最上級のもてなしを要求するぞ」
吉昌には余裕と優越感が満ちていた。
(ふふふふふ、まずは相手の心をくじくこと!
経営者スキル”マウンティング”発動!主導権は常に俺!)
──だが。
「ええ」
紅子がにっこりと不敵に微笑む。
「氷室一族、最上級のおもてなしをご用意しておりますわ。どうぞ、楽しみになさってくださいませ」
……その笑顔が、なぜだろう。怖い。
導かれるように兄弟が進むと、たどり着いたのは屋外の特設会場だった。
そこには――
いつもの白衣ではなく、黒い儒学者の正装を纏った氷室一族が、ずらりと整列していた。
中央には祭壇。 その前で、理玖と学長が待機している。
荘厳。威厳。異様。
「……集団コスプレか?」
紅子が優雅に扇をひらき、静かに吉昌たちに説明した。
「我が氷室一族は、由緒正しき学問の家系。陰陽師様の儀式の前に、私どもも古来より受け継がれし儀式をお見せしようと存じまして」
理玖がこてんと首をかしげて、補足する。
「ご先祖様と……封印令嬢のため!」
「大学寮の学者はこういう服着て、儀式やってたんだよ」
学長が嬉しそうに紅子に笑いかけた。
「ご先祖様、そして千年前の封印令嬢に、感謝の儀式を捧げたかったんだよね〜」
そのとき、吉平がふと思い出したように言った。
「そういや、崩れた氷室から、令嬢の遺体は見つからなかったんだよな」
「千年前だもんな」
吉昌が適当に相槌を打つ。
だが、学長と理玖が目を見合わせ──一族たちは、あからさまに視線を逸らした。
(……何か、妙だな)
吉平の警戒スイッチが静かに点灯する。
紅子様が、こっそりと津玖流に耳打ちする。
「生き返ったことは、彼にも秘密ですの?」
「信じないでしょ、普通」
津玖流は肩をすくめた。
琴や笙の音楽が流れ、朗々とした儀式の言葉が述べられる。古代めかした黒い正装の学者たちが静粛に作法を行う。
兄弟は荘厳な空気に押されながらも、なんとか虚勢を張っていた。
「なかなか格式があるじゃあないか」
──そのとき。
理玖が、祭壇の台にかけられた白布を、ゆっくりとめくった。
露わになったのは──
牛。豚。羊。
きらびやかに花で飾られた、生首の盛り合わせである。(※屠殺は業者に委託しております)
兄弟が、固まった。
無邪気な笑顔の理玖がにっこり言う。
「伝統儀式のお供え。生首の盛り合わせ」
「@#4&!#?!?!?!?!?」
理解を超えた光景に、兄弟の心が崩壊する。
な、生首!?!?!?
紅子は、その混乱をよそに微笑んだ。
「儒学者風の儀式ですわ。なかなかご覧になれないでしょう?すばらしい我が一族の伝統と格式をしっかりご堪能くださいませ」
紅子様の心は満ち足りていた。
「ほほほ!」
そして晴れやかな空に、雅楽の調べが静かに響き渡る──。
震えおののく兄弟たちには、葬送の曲に聞こえながら……。
初手:お出迎えの儀式
勝者──氷室一族
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