第2話 いつの間にか

紅子を抑えるように、吉昌は高飛車に問うた。

「はっ、氷室大学は何十年も赤字続きで、そんな金はどこにもないはずだが?」

学長も苦笑いを浮かべる。

「あははは〜、粉雪が静かに降り積もるように、借金が積もり積もって〜」

──根雪になったようだ。
いや、大雪か?

「いつの間にか増えた、というわけですわね」

紅子は驚いていた。

先月、この場所に来た時は、宮殿もかくやという豪華さに踊り出したものだった。

『私、犠牲になった甲斐がありましたわ! 一族がこんなに繁栄しているなんて! 推しの幸せ、私の幸せ〜』

──テンションMAXだった自分に、少し赤面する。

それにしても、ツケ払いならともかく、借金というのは穏やかではない。

「そもそも、なぜ困窮していますの? みなさま、大学という素晴らしい場所で学問をしていますのに」

学長が頬に手を当て、悩ましげに答える。

「あはは〜。運営交付金も廃止されたし、授業料じゃ、実験装置や研究費は払えないから、毎年お金が足りないの〜」

吉昌が、すかさず威張って言葉を足す。

「小さな大学は倒産するしかないという構造的な欠陥だ。寄付でもあれば別だがな」

「社長くん、寄付して〜」

「断る」

吉昌は即答した。

「あらまあ、学長ったら、ほほほほほ」

紅子は言葉とは裏腹に、世にも恐ろしい微笑みを吉昌に向けた。

「……こういうことは、相手から“援助させてください”と言わせるべきですわ……ねえ、社長様?」

──声が2トーン低い。怖い。

紅子の気迫に、吉昌は蛇に睨まれた蛙のようになったが、あくまで強気の姿勢を崩そうとはしない。

「う、うちと氷室一族は千年の付き合いだ。寄付はしないが、俺を理事長にすれば、9億円の借金は返さなくても許してやる。ママンの了承も得ている」

ママン? 理事長?
紅子の知らない単語が続く。

「理事長って、なんですの?」

それに答えたのは、学長だった。

「大学の最高責任者で、方針やお金の出入りの承認をする人よ。私の“学長”ポジションは教育のことだけ管理するの。
ちなみに、理事長は学長を解任できるのよぉ……」

紅子は即座に吉昌へ断言した。

「お断りします」

吉昌は予想していたのか、平然と応じる。

「じゃ、倒産か?」

──意地が悪い。

悪辣な顔をして笑う吉昌に、紅子は何も言い返せなかった。


「マイナスかけるマイナスは、プラス」


そう言って現れたのは、理玖だった。

「む、帰っていたのか次期当主! 留学まだ途中じゃないのか?」

こくり。

うなずく理玖は二十歳だというのに、あどけない子供のような青年だった。
精神年齢十歳だからと、一族の中でも過保護に扱われている。

「まあ、理玖! 何か解決策があるんですの?」

紅子の期待に満ちた問いかけに、理玖は頼りなげに頷いた。

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