第2話 シワシワの実
そういえば。
引っ越してきたときに、早く片付けたくって。ざっと掃除をして、元々置いてあったものもよく見ずに、自分のものを詰め込んだっけ。
この家は、かつてナナのおばあちゃんのお店だったもの。もしかしたらおばあちゃんが使っていたものかしらと蓋を開けると、中にはシワシワの実のようなものが入っていた。
とりあえず匂いをみてみよう。
「ゔっ」
ナナは急いで蓋を閉めた。とんでもなく臭くて、涙が出てきたほどだった。そしてナナはココフのお茶の入ったコップを手に取り、ズズッとすすって、いつもするように鼻から息を吐いた。これで口直しならぬお鼻直しができる……
「あれ?」
ナナは今度はコップから直接ココフのお茶の匂いを吸い込んだ。
「匂いがしない」
さっきまで部屋いっぱいに広がっていたココフの良い香りも、家の木の香りも、何もしなくなっている。
「どうしよう!」
ナナは焦った。
このまま、一生匂いがしなくなったら。
「それはいやだ!」
匂いがなくても生きてはいけるかもしれない。けれど、いい匂いをかぐことは、ナナの人生の大切な楽しみ。ナナはとにかくシワシワの実の入った瓶とスパイスの空き瓶を肩掛け鞄に入れて、自転車に飛び乗った。お店を紹介してくれた、大きな忙しいおばさんロアに
「ハプの店に通うなら徒歩より自転車!自転車を買うんだよ」
と言われ、買って置いた自転車。お店まで20分くらい。まだ朝の5時。
ナナ、まだ開いてないと思うよ?
とお腹の火がユラユラ揺れる。
それでもナナは『ハプのスパイスとお茶とハチミツのお店』へと走り出したのだった。
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